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歴史研究所の考える「歴史研究」―学校史料調査を例に―多和田真理子(調査研究員)

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年6月3日更新

学校史料調査を例に

過去・現在・未来

 飯田市歴史研究所のオープンにあたり作成したリーフレットの冒頭には、「現在及び未来に暮らす人々のために、飯田下伊那の歴史的価値を有する記録を、専門的な角度から、収集、保存、調査、研究する機関です」と書かれています。また、『広報いいだ』2003年11月1日号には、「地域がこれまでたどってきた歴史、すなわち過去において人々が営んできた生活の集積を、冷静に見つめ、明らかにしていくことは、地域の未来を切り拓くための糧となるはずです」という一文があります。これらの文が示しているのは、歴史研究とは単に過去を見つめるだけではなく、その地域の現在、そして未来とも密接な関わりをもつことなのだ、という認識です。

 そもそも私たちは過去から現在、未来へと切れ目なく続く時間の流れの中で生きています。だから歴史研究が過去だけでなく現在や未来にもつながるというのは、当然といえば当然です。地域史研究事業を進めるにあたって、このことはたえず意識しておかなければなりません。こうした過去・現在・未来のつながりを、最も端的に感じ取ることができるのが、現在歴史研究所で進めている、各学校に現在残されている歴史資料(史料)の所在状況調査だと思います。

学校史料の所在状況調査から

 学校史料の所在状況調査とは、史料調査活動の第一段階にあたるもので、学校に現在、どういう文書がどういう状態でどんなふうに残され、保存されているかというのを見せていただき、写真撮影とスケッチとで記録する作業です。史料の、いわば全体像を把握する作業です。

私たちが学校を訪問するとき、そこでは今まさに、子どもたちが集い、学んでいます。ここで行なわれている学びは、まぎれもなく現在のものです。ではなぜ子どもたちは学ぶのか。なぜ大人は、子どもたちを学ばせるのか。あえて簡単に言ってしまえば、未来を生きるためです。子どもはまさに「未来の主役」なのです。
 そして私たちは、授業中の教室の横をそっと通り過ぎ、学校史料が保存されている部屋に入れていただき、学校の過去を知るための貴重な史料を見せていただきます。未来を見すえた現在の学び。この営みが、過去からずっと積み重ねられてきた場所。それが学校です。学校の歴史を辿る試みを通して私たちは、歴史というものが、過去のことを扱うものでありながら、現在にも未来にもつながっているのだということを端的に感じとるのです。

学校史料とは その一例

 では、学校の過去を知るための史料として、具体的にどんなものがあるでしょうか。まず「学校日誌」があります。学校行事や事件などはこれに書き込まれています。また「校長日誌」が書かれたこともありました。日誌と名のつくものには他に、宿直あるいは当番の先生が書いた「当番日誌」があります。夜間の見回りの時などに何かあれば記入します。

 校舎やプール、体育館など、学校の設備の新改築に関する史料もあります。校舎を建て替える、体育館を建てるといったことは、莫大な費用のかかる大事業なので、それだけに、新しい学び舎をどう構想し、どう実現させていくかという、関係者の並々ならぬ熱意の結晶といえます。学校設備の変更に関する史料は、単に建物がどう変わったかという点だけではなく、そういう人々の熱意を読みとるうえでも欠かせません。
 また、職員会記録や校長会の配布資料などは、教師たちが当時どんなことを考え、話し合ってきたかといった点を知るために重要です。学校にいた子どもたちについて書かれた史料もあります。ある年度に在籍していた子どもの名前を知るには「学齢簿」や「入学者名簿」「卒業者名簿」などがあります。子どもに関するもっと詳しい情報として、古い「学籍簿」や「指導要録」などが残されている学校もありますが、これらは個人のプライバシーに関わる情報も多く含まれていますので、取扱いには十分に注意が必要です。ただし「学籍簿」や「指導要録」は、昔の子どもの様子や、教師が子どもをどういうふうに観察し、指導していたかということを知る貴重な史料でもありますので、廃棄してしまうのでなく、プライバシーに配慮しつつ史料の価値を生かしていく研究方法を、これから考えていく必要があります。

 また、生徒の絵画、習字などの作品が残されている学校や、各年の卒業文集が保管されている学校もあります。これらも、子どもたちの学びの一端を知る史料だといえるでしょう。他には、運動会や修学旅行などの行事記録が残されている場合もありますし、授業の記録が残されていることもあります。また、職員用図書としてラベルが貼られた書籍は、当時の教師たちがどんな本を読み、どんな観点をもって教育のことを考えていたかを知る手がかりになります。

 今挙げたのはほんの一例です。他にも様々な史料が、学校には残されています。そして今挙げたような史料は、現在の学校の活動の中で日々生み出されている「資料」でもあります。

史料の保存と活用

 過去・現在・未来へという時間のつながりを考えれば、現在生み出されている文書などの記録も可能な限り収集し保存していくことが、歴史研究を充実させるためには必要不可欠だということになります。古いものは大事だが新しいものには価値がない、と考えるのではなく、日々生み出されている資料をどう保存し、地域のことをより深く知る手がかりとして活用していくか。古い資料だけでなく、あらゆる資料に「歴史的価値」があるのだということを、私たち自身が認識し、研究に生かしていくことが求められています。

 これは重要な課題です。時間を掛けて取り組んでいきたいと思っています。