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市長エッセー(散歩道)その1~10

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年9月11日更新

飯田市長・牧野光朗が日々感じたことを記していきます

1 散歩の楽しみ (広報いいだ平成17年1月1日号より)

 正直、今回のエッセー連載の依頼があったときにはかなり困りました。これまで自分の身のまわりのことを中心にした文章を、あまり書いたことがなかったからです。けれども「水引型地域運営」を標榜する私にとって、これも市民の皆さんと結びつく契機の一つになれば、と考えまして、謹んでお引き受けすることにしました。どうぞ宜しくお願いします。
 さて、エッセーのタイトルからもお分かりのように、私は散歩が好きで、よく愛犬を連れて朝霧に煙る八幡の森の中を、ぼーっとしながら歩いています。また、毎月第2日曜の早朝にりんご並木で催されている「モーニングウオーク」にも参加していまして、街歩きを楽しんでいます。 振り返ってみれば昔から、勉強や仕事をしていても、煮詰まってくると家を飛び出して近くを歩き回っておりました。歩いている内に、何となく考えがまとまってきたり、新しいアイデアが浮かんだりするものです。
 ドイツ・ハイデルベルクにある「哲学の道」も、ネッカー川沿いに中世の趣を色濃く残す旧市街の風景を、楽しみながら歩ける散歩道です。 ドイツ人の散歩好きは世界的に有名ですが、哲学者達も散歩をしながら自らの考えをまとめていたのかも知れません。

2 竹宵の魅力 (広報いいだ平成17年2月1日号より)

 一昨年から年越しには竹宵の手伝いをしています。竹宵は、竹を何本も切って中にロウソクをともし、外に並べて楽しむものです。やろうと思えば、誰でも、いつでも、どこでもできます。 
 しかし実際にやってみると、なかなか奥が深く、どのように竹を切るか、どうやってロウソクを入れるか、どこにどのように並べるか、議論百出になります。 竹宵仲間が集まって地酒でも傾けながら、ああでもない、こうでもないと語り合うのも楽しみの一つと言えます。「地域づくり」を難しく考えなくても、誰でも気軽に自分たちの地域の彩りを考えることができるのは、竹宵ならではの魅力です。
 飯田においては、一昨年の年越しに川路神社で「川路竹宵」が始まりました。先日の年越しの時は、鼎の矢高神社でも竹宵がありました。竹宵の魅力にとりつかれた「タケヨイスト」たちは今後も増えていきそうです。 竹宵の御本家は「まちづくり」ならぬ「まち残し」の考え方で街並み保存を進めている大分県臼杵市です。11月初旬の土・日曜日(2日間)に行われる「臼杵竹宵」は、8年ほど前に街の片隅で始まりました。
 今では街中を埋め尽くす竹宵を楽しむために、全国から10万人以上の観光客が集まるイベントになっています。

3 朝のまち歩き (広報いいだ平成17年3月1日号より)

 散歩好きにとって、毎月第2日曜日の朝に開催される「モーニング・ウオーク」は参加する価値があるものです。 先日も早春の静かで澄んだ空気の中、三連蔵を起点にして「裏界線」と呼ばれる路地裏を歩きましたが、なかなか楽しいものでした。
 ドイツに滞在していた頃もよくまちなかを歩き回っていました。
ドイツの中心市街地は大抵クルマの乗り入れが規制されていて、平日の昼間でも静かで落ち着いた雰囲気があります。 こうしたまちづくりは、1972年のオリンピック開催に併せて中心市街地に歩行者専用ゾーンを導入したミュンヘンから始まり、その後、他の都市にも急速に普及していきました。
 欧州の都市のまちなかは中世の面影を色濃く残しているところが多く、まち並みの景観そのものが「まちの物語」を語っています。だから特にガイドがいなくても十分まち歩きを楽しむことができるのです。 これに対して、日本では「まちの物語」になりそうなものが点在していることが多く、これらを巡るためには、点と点を結んで物語を語ってくれる「語り部」がほしいところです。
 別府の「路地裏散歩」も豊後高田の「昭和の町」も、こうした語り部たちが「まちなか観光」を支えています。

4 全国エコツーリズム大会雑感 (広報いいだ平成17年4月1日号より)

 先日当地で開催された「全国エコツーリズム大会」は、参加された専門家の方から「これまでの大会のうちで最も地域密着型」との評価をいただきました。
 初日の情報交換会で、全国から集まった方々のエコツーリズムに関する「熱弁」を聞いている内に、5年ほど前のドイツ駐在時に開催した「日独地域国際化セミナー」におけるハイデルベルクのヴェーバー市長の言葉を思い出しました。 ハイデルベルク市は人口14万人ほどですが、環境、文化、産学官連携、観光などの政策面において欧州でも屈指の都市であり、持続可能な地域社会の実現に向けて最も努力している市の一つです。
その女性市長が、サイエンスパーク政策における自らのミッション(使命)として特に強調していたのが次の点でした。 「偶然の出会いを偶然に任せることなく、人々の出会うことができる場(プラットフォーム)を提供することです」
 この考え方は、今回の大会にも通じるものと思われます。エコツーリズムについて思い入れをもった方々が集まって議論する場をつくることができれば、そのネットワークの中から新しい動きが出てくることが期待できます。 今回の大会は、まさしくそうした胎動を感じさせるものでした。

5 距離感のリセット (広報いいだ平成17年5月1日号より)

 JR東海が企画した「さわやかウオーキング」に参加しました。駄科駅から鈴岡公園、松尾城址公園、八幡公園を巡り、伊那八幡駅をゴールとする約10キロのコースです。私の自宅周辺も通るコースなので、馴染深いウオーキングになると思っていたのですが、思わぬ「発見」がありました。
 駄科駅から松尾城址公園までの道のりが予想以上に短く、40分程度で楽に歩けてしまったのです。 このように遠いと思っていた場所が、行ってみると意外なほど近いということはよくあります。3年ほど前に大分に単身赴任した際には、飯田に帰省するのはかなり大変だと思っていましたが、実際には大分-名古屋間の航空アクセスが充実しているため、夕方仕事を終えた後でも帰省することができ、午後10時半頃には飯田の自宅に着いておりました。
 また、本年10月に飯田市と合併することになった遠山郷も実際に何度か足を運んでみると、意外に近いことが実感されます。このように私たちの距離感は現実の体験によってリセットされることが多いようです。 5月18日には当地で国際自転車ロードレース「ツアーオブジャパン」が開催されます。
 初夏の南信州を自転車で走ると、また新たな「距離感」が生まれてきそうです。

6 小川路峠を越えて (広報いいだ平成17年6月1日号より) 

 久堅の有志の皆さんと小川路峠を越えて上村にぬける秋葉街道を歩く機会を得ました。
 新緑の奥深い渓谷を眺めながら、人一人通るのがやっとの山道を峠まで3時間、峠を越えてふもとの上村まで3時間、ひたすら歩く行程でしたが、この街道が昭和30年代頃まで遠山郷の方々が飯田に炭を売りに来るための生活道路だったことを聞くと、大変感慨深いものがありました。 ドイツにおいても、その地の歴史を感じながら森歩きができるところがいくつもあります。
 フランクフルトの南方50km、クルマで30分ほど走ると車窓にオーデンバルトの森が広がります。ここはゲルマン民族発祥の地とされ、この森の中を歩くと、自然とワーグナーの「ニーベルングの指輪」で有名なドイツ神話の世界に思いを馳せることができます。
 そんなことから、この森の中を通る道は「ニーベルンゲン街道」と呼ばれていますが、ドイツ人の森歩き好きが分かる気がするところです。 それにしても、小川路峠から上村へ下りる行程は予想以上に長く、最後は足の痛みに耐えながら歩きました。ゴールに到達する頃には、ドイツの友人と一緒に森歩きをしたときも、同様な思いをしたことを思い出しました。

7 鳥の目線 (広報いいだ平成17年7月1日号より)

 大林宣彦監督の『なごり雪』を見たとき、映画の舞台になっている大分県臼杵市の街並みに感動し、どうしてドイツのような古い街並みが残っているのか、とても不思議に思ったものです。

 その後、ご当地の後藤市長にお会いした際に「ここにある鎮南山に登ってみてください。臼杵人の心が分かります。」と薦めていただきました。早速、次の休日に登ってみて、山頂から眼下に広がる美しい街並みを眺めたとき、気づいたのです。 「ああ、ドイツと同じだ。臼杵の人は鳥の目線をもっている。」
 ドイツの街の中心には教会があり、教会の塔に登れば街全体を見渡すことができます。あるいはドイツの市庁舎のロビーには、大抵その市の街並みの全体模型が置かれています。
 ドイツの市民は、こうしたものを通して、いわば鳥の目線から、自分たちの街がどんな顔をしていて将来どんな街になるのか、考えることができるのです。こうしたことをドイツでは人工物によって意識的に行っていますが、臼杵には自然なカタチで行える仕組みがあったのです。 段丘の街である飯田市には、山に登らなくても市内を見渡せる場所がいくつもあります。
 つまり、私たちも鳥の目線を持っていることになるのです。

8 日独地域国際化サミット実行委員会 (広報いいだ平成17年8月1日号より)

 先日、この10月の日独地域国際化サミット開催に向けて実行委員会の立ち上げがありました。若い世代を中心に市民公募の実行委員が20人以上集まり、熱心な議論が交わされましたが、こうしたドイツの地域づくりへの関心の高さの背景には、ドイツを含めた欧州の情報が日本に入りにくい事情があるように思います。
 一つは日本のマスコミが十分機能していないことが挙げられます。
 欧州においては、日本のマスコミの多くはデスクをロンドンに置いていて、普段は英文情報からしか大陸欧州の情報を収集していません。 このような情報は、当然英国のスクリーンがかかっていますから、ドイツやフランスなど大陸欧州からの生の情報は十分伝わらないようです。
 もう一つは日本の多くの研究者の関心が主に米国やアジアに向けられていることが挙げられます。 これに対してドイツの主要大学には日本センターや日本学科が設置され、政治、経済、歴史、文化など、こちらが驚くほど盛んに日本研究が行われています。
 今回のサミットが、こうした情報ギャップを少しでも補い、飯田市とドイツの地域に共通した問題点を議論し合って解決を図っていく契機になれば、と考えています。

9 協働の楽しみ (広報いいだ平成17年9月1日号より)

 7月30日、座光寺麻績の里に川路竹宵の灯がともり、富山市八尾の有志が「おわら風の盆」を披露してくれました。 この催しには当初の予想をはるかに超える700人もの観客が集まり、優美な踊りを堪能しました。
 風の盆の有志を迎えたのは座光寺の「麻績の里振興委員会」と「川路竹宵の会」の皆さんでしたが、両会のメンバーの大半は当日まで風の盆を見たことが無く、また、お互いが協力することも初めてとのことでした。
 それでも準備するうちからワクワクする期待感があったそうです。 果たしてその期待通りに、風の盆は、歴史と文化の香る麻績校舎と幻想的な雰囲気を醸し出す川路竹宵によくマッチし、それぞれが「やって良かった」と思える催しになったようです。
 これは「三者が協働すれば、きっと素晴らしいものが生まれるだろう」という考え方(価値観)をお互いに共有できた結果でしょう。 こうした試みこそ、「今まで誰も関係づけていなかった人的ネットワークを『地域の価値観』に基づいて繋げる地域づくり」の一例と言えますし、このように人的ネットワークのもたらす付加価値をそれぞれが確認できるところに、協働することの楽しみがあると思われます。

10 緑のネットワークづくり (広報いいだ平成17年10月1日号より)

 早朝に段丘の上を散歩していると、眼前に広がる緑のパノラマを楽しむことができます。屏風のように横たわる山々を背景に、そこここに点在する神社の森の緑が静かな街の景観に彩りを添えていて、四季折々に趣を変える佇まいには、時々息をのむこともあります。
 2度目のドイツ滞在を始めた1999年の春、フランクフルトの街を歩いて最も驚いたことは、人口65万人の中心市街地なのに6年前の滞在時に比べて緑が際立って多くなっていたことでした。 これは、街中の小公園や道路の緑地帯、クラインガルテン(市民農園)、屋上緑化、あるいは住宅の庭や窓辺の緑を「小さな緑」とみなし、これらを意識的に街の近郊にある「大きな緑」=森林までつないでいき、街中を網の目の様に緑で覆っていこうとする「緑のネットワークづくり」の成果によるものです。
 自宅近くにある大きなアカシアの枝にリスが走っているのをよく見かけましたが、街中と森の確かなつながりを実感したものでした。 上村、南信濃村と合併した新飯田市は、その面積の8割以上が「大きな緑」になります。これからは南アルプスの雄大な自然につながる「緑のネットワーク」をつくることができそうです。