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飯田歴研賞2022 受賞作品紹介

ページID:20220928 印刷用ページを表示する 掲載日:2022年9月28日更新

飯田歴研賞2022 受賞作品

 飯田歴研賞は、飯田・下伊那の地域史研究における優れた論文や著書等を表彰するものです。

 今年度の受賞作品をご紹介します。 

著作賞

竜丘公民館 竜丘児童自由画保存顕彰委員会・飯田市立竜丘小学校・飯田市美術博物館 様

『木下紫水物語 全国から注目された竜丘小学校の自由画教育の指導者』(2022年3月)

木下紫水物語表紙

【講評】

 大正デモクラシー期には、自由教育運動の重要な環として、山本鼎らによる児童自由画の教育運動が展開した。同時期に竜丘小学校で行なわれた自由画教育の実践は、日本の芸術教育運動の中で重要な位置を占めるが、全国的に見ればこれまで十分に注目されてきたとはいえない。今後いっそう研究され顕彰されるべき重要な教育実践であるといえよう。
 本書は、竜丘小学校の教師として児童自由画教育運動に取り組んだ木下紫水(本名茂男)の生涯と、彼の指導の下に描かれた自由画の作品の数々を紹介し、子どもたちや関係者に広く知ってもらうために作られたものである。本書の刊行によって、木下紫水の教育実践と竜丘小学校に保存されている児童画の作品群は今後広く世に知られることになるであろう。本書が、木下紫水研究と竜丘で展開した大正期自由教育の歴史の研究があらたに始まる火付け役になることが期待される。
 木下紫水の指導の下に描かれた子どもたちの300点余りの作品は、100年以上にわたり竜丘の人びとによって大切に保存されてきた。全国的に見ても希有のことである。竜丘小学校開校150周年記念事業の一環としてこの本を作製した竜丘公民館竜丘児童自由画保存顕彰委員会の方々、飯田市立竜丘小学校、飯田市美術博物館の関係者の方々に敬意を表する。全国の芸術教育運動の関係者や、大正自由教育の研究をしている人たちに広く読んでもらいたい本である。

【受賞の言葉】

 このたびは飯田歴研賞をいただき、大変光栄に思います。
 今回発刊しました『木下紫水物語』ですが、大正時代に竜丘小学校でおこなわれ全国からも注目された「自由画教育」の指導者である木下紫水の物語です。明治時代から大正時代の初めにかけての図画学習は、教科書のお手本をまねて描く「臨画」が中心でした。しかし、竜丘小学校の先生たちは、子どもの自由な表現を尊重した図画学習が大切と考え「自由画教育」を始めたのです。その時に描かれた絵が300点余、現在竜丘小学校に保存されています。『木下紫水物語』は、自由画教育の生まれた背景、自由画教育の本質等についてを木下紫水の生涯の歩みに沿って、小学生の子どもたち向けに「童話」として作成しました。また、この本の中には子どもたちが描いた「自由画」を30点余掲載しています。今後も竜丘児童自由画保存顕彰委員会を中心に、自由画の保存顕彰活動に取り組んで参りたいと思っています。

 

本島 和人 (もとじま かずと) 様

『満洲移民・青少年義勇軍の研究 ―長野県下の国策遂行―』(吉川弘文館、2021年9月)

満洲移民・青少年義勇軍の研究表紙 

【講評】

 本書の意義は次の点にある。
 第一に、飯田下伊那における満洲移民の送出「全国一」という言説(記録・記憶、問題意識あるいは学術的評価)そのものを検討の俎上にのせ、この地域の人びと、またひろく満洲移民の歴史を知ろうとする人びとが素朴にいだく疑問=「なぜ、長野県、それも下伊那は送出全国一となったのか」という問題に真摯に答えようとしたことである。これは、地域における歴史研究として、学術的な問題関心のみならず、人びとの知的関心に基づくものであり、こうした課題設定は、優れた学問的態度であるといえよう。
 第二に、同時に本書の内容も、学術的に優れた成果・叙述である。移民送出方式の多様さ(自由移民、分村・分郷移民、青少年義勇軍)とそれに対応した送出主体の多様性の分析、地域住民―地方行政・教育機関―国家の政策(「国策」)の相互関連的検討と末端での国策受容・推進の論理の析出、聞き取りなど多元的な方法の活用、などが印象的である。本書で示される歴史像は、なぜ「送出全国一となったか」という「問い」に対応しつつ、「模範」を求める価値意識、新しい「生活」への憧れの「動員」、「バスに乗り遅れるな」という焦慮とその裏返しの立身出世主義や保身、といったさまざまな人間の営みの力学の合成として描出されている。
 これまでの研究成果に対峙しつつ、個性的な歴史像を提出した本書の価値は高いと考える。

【受賞の言葉】

 歴研賞・著作賞に選出していただき、ありがとうございます。「満洲移民」は、若い頃から気掛かりとなっていたテーマです。満蒙開拓を語りつぐ会に加わり、歴史研究所に関わり早や20年、気がつけば老境です。体験者の皆さん、地元の先輩、ゼミの仲間、下伊那を訪れる研究者、史料と情報を提供して下さった皆さん、多くの方々との出会いに導かれての歩みでした。
 「なぜ、下伊那が‥」との問いは、父祖たちが生きたあの時代に向きあうことであり、心中に漂う憤りにも似た思いを昇華していくプロセスのなかにあります。本書では人びとの動きと残された言葉を通して下伊那の満洲移民の全体像に迫ることを試みました。しかしまだまだ課題は少なくないとの思いがあります。諸氏の学恩に感謝しつつ、史料に向きあう日々をもう少し過ごしていくことができればと考えています。

 

論文賞

清水 迪夫 (しみず みちお) 様

「歌誌『夕樺』と下伊那青年運動」(1)~(6)(『伊那』1096~1116号)

伊那表紙

【講評】

 本論文は「郷土の文化遺産、歴史資料を救い、調査・保存し、その歴史を学んでいく」ことの重要性を知悉する清水氏による下伊那青年運動をめぐる研究成果である。
 本論文では、大正デモクラシーの下で発行された短歌雑誌『夕樺』に集まった青年たちの文化・芸術運動が社会主義の運動へと展開していく過程が、史料に基づいて実証的に検証されている。これまで、両者の間には強いつながりがあることが指摘されてきたが、その実態は十分明らかにされていなかった。本稿によってその具体的な事実が明らかになった。
 白樺派の叙情的、人道主義的な発想のもとに結集した『夕樺』(1921年発刊)に集まった青年たちの中から、やがて歌への情熱を社会改革に向け、早稲田大学文化会の流れを汲むマルクス主義の研究団体として下伊那文化会を立ち上げ、自由青年連盟(LYL)を組織していくことになる青年たちが登場する。本稿は、この歴史過程を、『夕樺』からLYLに連なる羽生三七らをはじめとする9人の青年たちの自己形成史を軸として調査研究し、下伊那の青年運動の性格と特徴をさらに明らかにした。

【受賞の言葉】

 拙論は、「(歌誌)『夕樺』の活動の中で、現実を見つめること、貧しさを貧しさとして見ることができるような青年が育った。…(戦前の)下伊那の自主的な青年運動を推進していく中心的な役割を果した青年のほとんどが『夕樺』の同人または会友であった」(『下伊那青年運動史』)過程を実証的にみたものです。
 大正デモクラシー期の民主的進歩的風潮は、下伊那の青年たちの社会政治に対する意識・関心を高めていきました。短歌は喜怒哀楽の感情と同時に強い社会意識・関心がないと詠めないのではないかと思います。
 先日次のような短歌が『朝日新聞』に掲載されていました。「生活費の赤字が続き穏やかな妻がプーチンの蛮行をなじる」(いわき市 守岡和之、2022年8月7日) 「目的ができたと白寿の祖母の言うプーチンの死を見るまで生きると」(神戸市 米谷茂、2022年8月7日) 「ゼレンスキー氏がユニクロのCMに出るようなそんな日が早く来てほしい」(前橋市 西村晃、2022年8月14日)
 たかが短歌、されど短歌。受賞感激です。もうすこし頑張りたい。

 

奨励賞

座光寺 歴史に学び地域をたずねる会 様 

『古老が語った我が歩み 語り継ぎたい「昭和・平成の記憶」』(2021年8月)

古老が語った我が歩み表紙

【講評】

 本書は、2010年に発足した「座光寺 歴史に学び地域をたずねる会」が、設立の直後から長期にわたり持続的に進めてきた、座光寺の「古老」の方々からの聞き取りを中心に編集した記録集である。語り手は48名にも及び、これらを会で編集し活字に起こしたものである。内容は、アジア太平洋戦争期における体験―軍隊経験・満洲移民・小学校教育・女性―を軸にするが、戦後から現代にかけての地域の産業―農業・養蚕・石工・瓦屋・饅頭―、また天竜川との関わりなどにも及び、実に多様である。語り手の方々が、同じ地域市民である聞き手を前に、率直に、また力を込めて語られているのが印象的である。地域の歴史を刻んできた、失われゆく過去の記憶と経験を、可能な限り語り手に身を寄せて編集しており、地域の方々自身が作成したかけがえのない記録集として、貴重な成果となっている。

【受賞の言葉】

 当会は平成22年に発足致しました。聞き取りは平成23年頃から始めましたが、中々思うように進まず、平成26年の3月から、歴史研究所のご指導を頂きながら、終戦67年になってしまうので、今聞いておかないと戦争の事実が聞けなくなって仕舞うという事で本格的に取り組み始めました。聞き取りを始めたのが遅かったのか、外地へ行った方からの聞取りは少数しか出来ず後悔致しましたが、しかし内地に居られ方から戦争に関する貴重な聞き取りをする事が出来ました。その後は聞き取りの内容を終戦からの農業の変遷についてのお話や、地域振興等に移して、多くの方々から貴重なお話の聞き取りが出来ました。昨年の8月に書籍で発行する事ができました事を関係各位に感謝致します。聞き取りは昨年の7月から再開致しました。今回の受賞を励みに、今後皆さんのご協力を得て聞き取りを続けたい。今回は飯田歴研賞を頂き感謝し、御礼申し上げます。

 

関連リンク

 過去の飯田歴研賞受賞作品