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飯田歴研賞2023 受賞作品紹介

ページID:20230927 印刷用ページを表示する 掲載日:2023年9月27日更新

飯田歴研賞2023 受賞作品

 飯田歴研賞は、飯田・下伊那の地域史研究における優れた論文や著書等を表彰するものです。

 今年度の受賞作品をご紹介します。 

著作賞

玉木  寛輝 (たまき  ひろき) 

「戦前期日本の「ファシスト」の在郷軍人への接近と乖離 ―北れい(れいの漢字は日へんに令)吉と長野県下伊那地域の在郷軍人を中心に―」(『近代日本研究』第39巻、2023年2月)

玉木寛輝著「戦前期日本の「ファシスト」の在郷軍人への接近と乖離 ―北れい吉と長野県下伊那地域の在郷軍人を中心に―」

【講評】

 北一輝の実弟であり、昭和戦前期の政治家・思想家であった北れい吉(以下、北と略称)は、イタリアファシズムに傾倒した結果、長野県下伊那地域の在郷軍人会をはじめとして地域の在郷軍人会を、既成政党に代わる政治改革の担い手として注目していった。
 本論文は、これまで注目されてこなかった北と在郷軍人会との関係について、ジョージ・モッセ『英霊』が導いた「政治の軍事化」(在郷軍人を含むパラミリタリーグルーブによって、暴力が政治の形態を規定するような状態)概念に示唆を受けつつ、北が発行していた雑誌『祖国』中の北の論考、さらに中原謹司関係文書、森本州平日記などの地域の一次史料を分析することで具体的に実証した結果、本論文が研究史上に与える意義はまことに大きなものであるといえる。
 北は、統制された組織を持ち、国民の中核分子として働きうる在郷軍人が、農山漁村に遍在していることが、第一次世界大戦後のイタリアファシズムの歴史に鑑みても重要だと考えていた。そこに北が在郷軍人会に接近していった原因があった。しかし同時に北は、日本において、経済に占める官業の割合が圧倒的に高い状態へ強い危機感を持っており、また官業が経済を圧倒している状況では、その経営の実態が国であろうと私企業であろうと、腐敗は免れがたいと確信していた人物であり、産業を国権に集中させてはならないとの考えを強く抱いていた。
 本論文の著者は、この北の論理構造を『祖国』掲載の北論文や、地域の一次史料から丁寧に抽出し、北の国家社会主義観や社会政策観が、経済恐慌の深刻さへの危機感から国家社会主義への共感を隠さなくなっていた、地域の在郷軍人指導層との乖離をもたらす構造的な原因となっていた、との論旨は極めて説得的である。よって、飯田歴研賞にふさわしいと評価できる。

 

【受賞の言葉】

 この度は飯田歴研賞(論文賞)に選出いただきましたこと、大変光栄に存じます。もうすでにかれこれ10年以上飯田市歴史研究所に通い、在郷軍人会・信州郷軍同志会について調べを進めて参りました。飯田・下伊那地域については掘れば掘るほど新たな歴史が出て参りますが、私がこのような歴史の宝庫の恩恵にあずかれているのも、ひとえに史料を残そうと尽力されてこられた方々のおかげです。研究所の皆さんにもいつもお世話になっており、深謝に堪えません。
 飯田・下伊那地域の研究を始めたきっかけは、何気ない理由からでありましたが、研究を進めるにつれ、私の曾祖父が現在の飯田線に深くかかわった櫻木亮三であることも分かり、これは運命であろうと感じている次第です。引続き飯田・下伊那地域の研究に貢献できるように精進して参りますので、どうぞ宜しくお願い致します。

 

奨励賞

高森町飯田線開通百周年記念事業実行委員会   

『山吹駅 市田駅 開業100年記念誌 飯田線 駅えき街まち 百年』(2023年3月)

高森町飯田線開通百周年記念事業実行委員会『山吹駅 市田駅 開業100年記念誌 飯田線 駅 街 百年』

【講評】

 本書は、開通100年を迎える飯田線にある駅のうち、高森町とゆかりのふかい駅を中心に、地域住民が主体となって編さんした記念誌である。伊那電気鉄道から国鉄、JRへと変遷する通史が概説された後、とくに山吹駅と市田駅周辺の地域社会の様子が、戦前と戦後のそれぞれにわけて叙述されている。その2駅だけでなく、高森町内にある他の駅(下平、下市田)も含めて、駅およびその周辺が簡潔にフォローされている。本書を作成する実行委員会が2022年に発足し、年度内に迅速に刊行できたのは、本書で利用されている町史や地域史研究論文などの蓄積が豊富に存在したからだろう。その点で、地域文化の産物でもある。実行委員会は、本書の作成のほかにも、フォトコンテストをはじめ多彩な活動に取り組んでおり、その力量には敬服するほかない。内容面でとりわけ目を引くのは、掲載されている多数の写真である。駅と列車だけではなく、地域社会の様子がリアルに伝わる写真の数々をみているだけで楽しい。駅前を埋め尽くしている阿島傘の写真(32頁)などは、地域産業の歴史を知る資料としても興味深い。本書では聞き取りも多数活用されており、集められた語りはぜひ地域で保存し、これからも聞き直せるようにしていただきたい。また、完成した本書を用いることで、さらに活発な地域での語りが生まれそうである点に今後の可能性を感じて、奨励賞としたい。

 

【受賞の言葉】

 思わぬ受賞に関係者一同感動、とても感謝しています。2023年3月に、高森町に伊那電気鉄道が開通し100周年を迎えるに当たり、多くの記念事業を企画、その一つに後世に残していかなければならない記念誌の発行がありました。飯田線に関しての資料集めを進める中で、広く町民からの資料や写真提供を呼びかけ、各家庭に眠っている貴重な記録が集まりました。また、気楽な座談会方式の聞き取り取材から、飯田線が住民生活に深く関わってきた事を実感致しました。山吹駅では当時の変電所や歴史が偲ばれる景観が残っていて駅界隈の歴史を再確認でき、また市田駅では出砂原商店街100年の様変わりとその記録の整理ができました。記念誌の完成時には、歴史民俗資料館で資料展示と共に、本をテキストに学習会を実施しました。短時間でのまとめでしたので編集締め切り後に新たな資料も出てきたこともあり、出版して終わりではなく、奨励賞に相応しく今後も歴史の掘り起こしに努力して参ります。

 

関連リンク

 過去の飯田歴研賞受賞作品