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飯田文化会館情報誌 toi toi toi!第3号 みる・演じる・ささえる 人形劇のまち つながる輪と未来への夢
飯田文化会館情報誌 toi toi toi! これからの文化を担っていく人を紹介するコーナー「Toward the next stage」。
今回は「みる・演じる・ささえる 人形劇のまち つながる輪と未来への夢」と題して、獅子を舞う男、人形劇俳優、NPO法人いいだ人形劇センター事務局をされている後藤渉さんを紹介します。

毎年8月上旬に開催される国内最大級の人形劇の祭典「いいだ人形劇フェスタ」。国内はもとより世界各地からプロ・アマチュアの劇団が一堂に会し、市内各地で公演を繰り広げます。
期間中は伝統人形劇から現代人形劇まで多彩な人形劇が市内のあちこちで上演され、まち中が舞台に。また、“みる・演じる・ささえる わたしがつくる トライアングルステージ”をキャッチフレーズに、こども・大人の市民の皆さんがボランティアスタッフとして運営を担うのもいいだ人形劇フェスタの大きな特長です。
この“みる・演じる・ささえる”という3つの柱すべてに携わってきたのが「わたちゃん」の愛称で知られる後藤渉さんです。
幼少時代から人形劇フェスタを見て育った後藤さんは、中学生の頃からボランティアスタッフを務め、19歳で「獅子を舞う男」としてデビュー。獅子舞と人形劇を融合させた独自の作品で人気を集めるほか、文化の伝承を目的とした「わたちゃんのダンボール獅子舞ワークショップ」を引っさげ、全国を飛び回るなど活躍しています。
「表現の原点になったのは4歳のときに始めた地元の獅子舞。小学校の総合的学習で人形劇に取り組み、その後ボランティアでフェスタに携わるようになって舞台の魅力にどっぷりハマりました」。
松本の高校へ進学し、移り住んだ地で人形劇団「やまんば」に入団。人形劇の基礎を学び、自身の舞台制作にも励みます。卒業後は飯田へ戻り、社会人として働く傍ら、幼稚園や保育園、高齢者施設、図書館などで獅子舞を披露するボランティアをライフワークとして続けてきました。
「原動力になっているのは『こどもたちに文化を伝えたい』『飯田の魅力を伝えたい』という思い。これからも獅子舞や人形劇を多くの人にアピールしていきたいですし、自分の舞台をきっかけに興味を持ち、好きになってもらえたらうれしいです」熱意をもとに繰り広げられる後藤さんの舞台は、世代を超えて観る人を楽しませる魅力にあふれています。

個性が交わり広がる新たな可能性
令和6年8月2日、いいだ人形劇フェスタで上演された劇団WAKWAKイイダの舞台「旅するりんご」。この舞台上にも後藤さんの姿がありました。
メロンなどの果物や多彩なキャラクターに扮し、演じ分ける後藤さんと、その姿にキラキラとした眼差しを向けるこどもたち。
劇団WAKWAKイイダは、地域で活躍する多彩なアーティストがタッグを組み、令和6年4月に結成された劇団です。
いいだ人形劇フェスタは劇人や劇団、アーティスト同士の交流の場にもなっており、この機会にしか見られない特別な舞台や、ユニットの結成が実現することも多くあります。
「初めてほかのアーティストとコラボレーションしたのは20代前半のとき。音楽的道化師ましゅ&Keiさんと3人で作品を作りました。いいだ人形劇フェスタはもちろん、台湾や韓国のフェスティバルでも上演できて良い刺激をもらいました」。
令和2年からは、いいだ人形劇フェスタを通じて縁がつながった「ITOプロジェクト」の作品『高丘親王航海記』に客演として参加。新しい事にも積極的にチャレンジし、自身の表現の幅を広げています。
「多くの出会いがあり、つながりが生まれたのもいいだ人形劇フェスタのおかげ。感謝していますし、これから恩返しをしていかなければと思っています」。
仕事に励みながら舞台に立つ“二足のわらじ”生活を15年間続けてきた後藤さんに転機が訪れたのは3年前のこと。体調を崩し、腰の手術を受けたことを機に転職し、現在はNPO法人いいだ人形劇センターの職員として新たな気持ちで人形劇と向きあっています。

こどもたちの心に寄り添う人形の力
「人形劇の一番の魅力は人形がしゃべるということ。人形やぬいぐるみは、置いてあればそのままですが、人が手を加えて動き、しゃべりだしたとき、そこに『命』が見えるんですよね」。
現在、後藤さんが主に携わっているのは、いいだ人形劇センターが営むコミュニティー施設「ほっこり」の企画・運営です。人形を活用した居場所作りを目指し、ワークショップやイベントを開催するほか、こどもから年配の方まで誰もが気軽に立ち寄ることのできる場所として開放しています。
「この業務に携わるようになって気付かされたのが、人形遊びから生まれるコミュニケーションの力です。小さな子でも人形を渡せば、動かしたいという気持ちが生まれますし、遊びながら自然と演じ始める。その瞬間から表現者になっているんですね。また、人としゃべるのが苦手な子でも、人形を介せば話ができたりもする。こどもたちの心に寄り添う人形の力はすごいと感じました」。
後藤さんがこどもたちに伝えたいのは「答えは一つではない」ということ。「感情や考えを言葉でうまく表現できないこともあるでしょう。でも、例えば体で表現してみたり、つらかったら文字や絵を書いてみたり、人形を介して表現することだってできる。自分なりの方法を見つけられたらそれでいい。こどもたちに伝え続けていきたいですし、力になりたいですね」。


さらなる進化を目指して
昭和54年に「人形劇カーニバル飯田」として始まり、歴史を重ねてきた人形劇フェスタ。「学生時代にボランティアを経験して舞台芸術や声優の道に進んだ人や、大学時代に人形劇フェスタを経験してプロ劇団に入った人もいます」と後藤さん。
見る側だったこどもたちが劇団を組んで演じる側になったり、ボランティアとして支える側になったりと良い循環の中で、この地に人形劇の文化が根付いています。
「文化が根付いた背景には、厳しくも温かな眼差しで見てくださるお客さんたちの力が大きいと思います。人形芝居や歌舞伎、獅子舞などの文化芸術が脈々と続いてきた地域だからなのか、飯田の人は目が肥えていますよね。アンケートや口頭で、賛否両論さまざまなご意見を頂きますが、それがあるからこそ“みる、演じる、ささえる”のトライアングルが成り立っている。自己満足で終わらせるのではなく、寄せられる声を参考に修正をかけるなど、私自身も向上する機会を頂いています」。
一方で、近年、全国各地で新たなフェスティバルが立ち上がり、出演劇団が分散してしまうという悩みも。
「そんな状況の中でも『やっぱり飯田は違うよね』『魅力があるから飯田で演じたい』と感じてもらえるような取り組みは必要かなと思っています。こんなに文化が豊富な地域ですから、人形劇を一つのコマにしながら発展させてつながり、魅力を発信していきたいですね。もちろん、自分自身も進化していきたいですし、進化しなきゃいけないと思っています」と、力強く語る後藤さん。デビューから18年、表現者としての挑戦はこれからも続きそうです。


