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飯田アカデミア第70講座を開催しました
飯田アカデミア2013 第70講座報告
第70回となる飯田アカデミアを、白水智(しろうず さとし)先生をお招きして、12月7日(土曜日)・8日(日曜日)の両日にわたって開催しました。
日本各地の山村で研究された白水先生は、水田・稲作中心の農村観からすると「遅れている」とされることが多い山村について、その「豊かさ」の側面を明らかにされました。1999年からフィールドにされてきた栄村で、2011年3月に大規模地震が発生し、それ以来、先生は「地域史料保全有志の会」を結成し、その代表として、栄村の歴史資料を保存する活動に取り組んでいます。
今回の飯田アカデミアでは、先生のこれまでの研究と実践経験に基づいて、栄村での活動紹介にはじまり、山村での暮らしを育んできた豊かさの歴史や、また、そもそも「文化財」とは何か、また地域の人々にとって歴史を学ぶことがどのような意味を持つのかという、歴史を研究するうえで根本的なことに至るまで幅広く講義をしていただきました。
とにかくまず「現地」に行きフィールドワークをすることが、どれほど大事かということが先生の主張されるポイントです。地域に残された史料に学ぶということが、そこにいま現在暮らしている人びとに学ぶことと密接不可分であるということ、さらに、地域の将来を担っていく若い世代が、実際に史料を読んで歴史を学ぶことによって意識が変わっていったということを実際の事例を交えて紹介していただき、未来を考えるために過去の歴史に学ぶことがどれほど重要であるかを教えていただきました。そして、このように人と地域を変えていく豊かな可能性を秘めた史料を、いわゆる「文化財」として認定されたものだけに限定せず、さまざまな文書や民具、考古史料を含めた総体として、つまり歴史的な「文化遺産」として保存していくことが必要だということでした。
また講義を通じて、今後の取り組みについての宿題もいただきました。調査・研究に関しては、文献史学・民具・考古が連携した調査と文系・理系を超えた共同研究の面白さと重要さを伝えていただきました。また、飯田・下伊那も含めた長野県では今後どのようにして「文化財」を含む地域の歴史資料を保存していくのかということについても問いかけがありました。
講師
白水 智 (中央学院大学 准教授/地域史料保全有志の会) 1960年生
講座の概要
1日目 災害と歴史学
第1講 長野県栄村での被災地活動の経験から
- 長野県北部震災と文化財の被災
- 「地域史料保全有志の会」の結成と活動
- 次世代につなぐために―救出文化財の活用
- 「歴史と文化の拠点施設」と活動のこれから
第2講 何のための文化財保全か
- 村の復興に文化財はなぜ必要か
- 小滝地区の人々と地域の文化遺産
- 教訓を伝える史料―善光寺地震史料の発見
- 「これまでがあって、これからがある」―歴史・文化の力の再認識
2日目 山村を見直す―地域史料調査の中から
第3講 山村の力を再認識する
はじめに―日本の山の姿
- 今回の話題となる主な場所(山梨県早川村/長野県栄村「秋山郷」)
- 山は住みづらいか
- 膨大な山の富―山をめぐる巨大産業
- 山の恵みの生かし方―多様で豊富な山の資源と生業
- 山村の生活・生業の柔軟さ
- 山村の再評価―『里山資本主義』で注目される山間地
第4講 フィールドに出る歴史学
- フィールドはあらゆる分野の総体
- 古文書の探索から始まる意外な広がり
- 巡検で知る山人の技能
- フィールドで得るもの