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飯田アカデミア第88講座を開催しました(20191005)

ページID:0075825 更新日:2019年10月13日更新 印刷ページ表示

10月5日に上郷公民館で開催しました

 

   ノートルダム大聖堂  

     ノートルダム大聖堂             

 

  • 開催日   2019年10月5日(土曜日)                                                    
  • 講  師  加藤 耕一(かとう こういち)さん(東京大学教授)
  • 会  場  上郷公民館 202中会議室

  

詳細日程・講義概要

テーマ  時間が生み出す建築の魅力  ─ ヨーロッパに学ぶ建築リノベーションの歴史 ─

欧州の古代末期から現代にいたる長い歴史のなかで、既存の建造物がどのように再利用やリノベーションされてきたのかを

概観しつつ、現代における創造的な建築再利用の可能性や、建物を時間のなかでとらえることの重要性について学びまし

た。

 加藤先生1

 

講義の概要

  第1講  時間が生み出す建築の魅力  ヨーロッパに学ぶ建築リノベーションの歴史

 8万人を収容する東京オリンピックのメインスタジアムと古代ローマのコロッセオの比較に始まり、巨大なスタジアムを恒久的

に維持できない時代が到来しつつあること、また時代の変化のなかで、再利用的建築観をもつことが今後重要となるという見

解を示されました。具体的には、南仏の古代の闘技場が、中世には城塞化され、その後、都市住宅へと変化を遂げたこと、さ

らにそれが19世紀に文化財という考え方と保存の方法・技術が生まれたことにより、古代遺跡として修復整備されたことを踏

まえ、こうした機能転用の繰り返しや価値観の歴史的変化のなかでヨーロッパの建築が現存している事実を確認しました。そ

こから、特に20世紀になってから日本で定着した、竣工時点の建築を至上とし、古い建物を取り壊して更地にする再開発のあ

り方に疑問を呈しつつ、また19世紀の学術的な文化財保存とも異なる、再利用による建築の再生の可能性へと議論を進めま

した。古代末期から中世初期における建築の再利用の興味深い例として、スポリアと呼ばれる、別の建物や廃墟から柱等の

建築部材を持ち去り建材として再利用することがかなり一般的に行われていたことを紹介し、また現代ではパリの鋳鉄製の

オルセー駅舎の美術館への転生や、イタリア・ヴェローナのカステル・ヴェッキオ美術館などリノベーション設計の成功例が取

り上げられました。

加藤先生3

 

  第2講  化財と再利用  パリのノートルダム大聖堂を例に

 今年の春に尖塔と屋根が火災によって焼失したパリのノートル=ダム大聖堂を取り上げ、その再建に関する政治家による性

急な発言が生まれた背景や、この建築が19世紀の文化財保存やゴシック・リヴァイヴァルの歴史で果たした役割など、多面

的な諸相が語られました。そもそもパリのノートル=ダム大聖堂は、12世紀に建設された初期ゴシック様式の重要な歴史的建

造物ですが、19世紀初めの頃には、ルネサンス風デザインに改装されており、それが小説家ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=

ダム・ド・パリ』でも批判され、当初のゴシック様式へ復元されたという経緯が説明されました。また、焼失した交差部に

そびえていた尖塔は実は19世紀の火災で焼失した木造のものを、ヴィオレ=ル=デュクという修復建築家が再建したものとして知られます。

そしてそのヴィオレ=ル=デュクによる塔のデザインは多分に想像に基づいたものであり、ヴィオレ=ル=デュクが考え

る実在しないゴシック建築の理想形態として設計されました。このような建築家の創造的復元は後世に科学的な修復理論が

整えられていくなかで批判にさらされ、「推測による修復」を禁じる国際憲章もつくられました。しかし、パリの市民にとっては一

世紀以上にわたって、ノートル=ダム大聖堂の尖塔として存在し、それが馴染みのものであっただけに、今回の火災で焼失し

た塔に代わる新たな塔の建設は、現代のスター建築家の自己顕示欲を満たすもので良いのか、慎重な判断が必要となると

いえましょう。