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飯田アカデミア第85講座を開催しました(20181020‐21)
飯田アカデミア第85講座 報告
「大地に時を刻む建築のかたち」
講師 太田 邦夫 (おおた くにお)さん (東洋大学名誉教授 ものつくり大学名誉教授)
10月20日及び21日に松尾公民館で開催し、2日間で約50名の方が参加しました。
今回のアカデミアでは、「大地に時を刻む建築のかたち」というテーマのもと、
ユーラシア大陸という地理的枠組みのなかで、木造建築における柱の構法的発展過程や
古代遺構の復元に関する連続講義が行われました。
講師紹介
太田 邦夫 (おおた くにお)さん (東洋大学名誉教授 ものつくり大学名誉教授)
1935年東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒。
東洋大学工学部建築学科教授、ものつくり大学教授を歴任し、現在は太田邦夫建築設計室を主宰。
主な著書:『ヨーロッパの木造建築』(講談社)、『東ヨーロッパの木造建築―架構方式の比較研究』(相模書房)
『エスノ・アーキテクチュア』(鹿島出版会)、『木のヨーロッパ―建築とまち歩きの事典』(彰国社)など。
主な設計作品:「三笠の家」「松本の家」「根古谷台遺跡(復元)」など。
講義概要
【第1講】 柱のある建築とない建築 ―世界からみた日本の伝統的な木造建築―
広葉樹林が多くまっすぐの木材が入手しづらかった欧州では、壁構造の建築(柱のない建築)が発達し
木材の使い方もアジアとは異なる構法で用いられてきました。 一方、日本やアジアで発達した、柱梁の軸組み構法は、
「貫き」と呼ばれる耐震性のある洗練された伝統的な建築技術によるものです。
こうしたユーラシア大陸東西の建築文化の対比的理解から始まり、「柱をもつ建築」の本源的な姿を探るべく、
古代遺構や民俗建築へと講義内容は展開していきました。
【第2講】木造建築の構法からみた柱配置の変遷史 ―各地の遺跡や遺構の平面と古代人の平面幾何学―
古代の住宅遺構の復元は、発掘調査により判明した、地面にあいた穴の痕跡に基づいた復元です。
これらの穴の跡柱が立てられていたことは確かと言えますが、中には住宅としては不自然な柱配置の遺構も存在します。
また、それが住宅遺構であったとしても屋根等の上部構造の復元は想像的にならざるを得ません。
世界各地の遺構とその復元についての多くの事例を紹介し、それらの復元案を批判的に見ていくことの重要性を指摘し、
新しい解釈の可能性を示唆する内容となりました。
【第3講】古代の天文学的な知識と建築の遺構 ―柱の配置で時間の経過を表現する方法―
古代人がどういった尺度体系や幾何学により柱を立ててきたのか?
講師の太田邦夫さんの仮説は、「縄文時代の木製の環状列柱の配置には明確な幾何学的意図がある。
太陽暦と太陰暦を理解した上で、年月の経過を記録する装置であった可能性があり、住居遺構と考えられ
てきたもののなかには、こうした環状列柱(モニュメント)も含まれる可能性が大いにある」という内容でした。
【第4講】時シンボルとしての柱と柱列―古代ヨーロッパの事例と日本の神社建築 ―
環状配置の柱列遺構のみならず、いくつかの日本の神社建築においても、年数を記録する柱配置であった可能性が論じられました。
諏訪下社や伊勢神宮のように一見すると直交軸上に柱が立てられたものも、環状柱列として解釈してみると、
古代の柱列配置と同じシステムによって建造された可能性が示唆されます。
こうした最新の研究成果が披露されました。