飯田アカデミア第93講座を開催しました(20221001)
元岩波書店取締役 井上 一夫さんに「私流 歴史の本のつくり方 ―編集者として考えてきたこと―」について講義していただきました
- 開催日 : 2022年10月1日(土曜日)
- テーマ : 私流 歴史の本のつくり方 ―編集者として考えてきたこと―
- 講 師 : 井上 一夫(いのうえ かずお)さん (元岩波書店取締役)
- 会 場 : 上郷公民館 2階講堂
講義概要
岩波書店の編集者として長く活躍された講師から、歴史に関する学術書編纂の際に心掛けてきたことや多くの著者たちとの交流のエピソードなどが語られました。学術的な出版を行うことの意義と課題が伝えられました。
テーマ 私流 歴史の本のつくり方 ―編集者として考えてきたこと―
第1講 「原典を編むということ ―読める史料集とは」
岩波書店入社直後に配属された、『日本思想史大系』の編集部における活動およびそこで学んだことなどを中心にお話しいただきました。『日本思想史大系』の編纂に従事した優れた研究者とのかかわりを通して、出版編集の在り方の基礎を学んだ時代のことが、具体的なエピソードを中心に語られました。特に歴史家のマルクブロックの著書における「歴史が何の役に立つのか説明してよ」という一節を引用し、その問いかけに対して出版編集に従事することを通して、自分なりの返答をしたいという思いが根本にあったという点が強調されました。
史料集などは内容的に難しいものも多く、人々の関心を引きにくい分野でありますが、それ故にこそ継続的に出版されていく必要がある、という点が強調されました。
第2講 「歴史を読み取り伝える ―岩波新書の編集作法」
岩波新書の編集部に異動し、多くの人気新書を企画刊行した時代の話を中心にお話しいただきました。『日本思想史大系』時代に学んだことをベースに、岩波新書というフィールドでそれまでになかった内容の企画を立ち上げ刊行していった時代のことが話題の中心になりました。多くの新書を企画した際、それまでの専門である歴史分野をベースとしつつ、それ以外の様々な分野の新書を企画出版していった際の経験が伝えられました。永六輔や鈴木敏夫など、様々な分野の第一人者とともに本を作った際、彼らが発した印象的な言葉などが参加者に紹介されました。自らが企画した新書を学術的な内容を基礎にする知識の本と、少し異なる観点からの内容を伝えようとする知恵の本と位置づけ、その両方を積極的に企画刊行していった点を説明いただきました。
編集者というものが果たすべき役割は本質的に属人的であいまいなものであることを述べたうえで、後世に書籍という形で人々の様々な言葉を選びとり残していく重要性を伝えていただきました。