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遠山の霜月祭の「ユネスコ無形文化遺産登録」に取り組んでいます

ページID:0113289 印刷用ページを表示する 掲載日:2024年2月1日更新

取組みの概要                                      

 遠山と呼ばれる飯田市上村・南信濃地区で一昼夜にわたり湯釜で全国の神々をもてなす霜月祭。ジブリ映画「千と千尋の神隠し」の設定のヒントになったことでも知られています。このお祭をユネスコ無形文化遺産へ登録を目指す取組みが始まっています。

 この取組みは、登録が目的ではなく、日本を代表する伝統文化「神楽」のユネスコ無形文化遺産登録によって、「遠山の霜月祭」の保存継承・振興につなげていくことを目的としています。

 ユネスコ無形文化遺産の登録数は各国・地域で偏りがありますが、日本は22件(2024年1月現在)登録されています。その中には、既に「早池峰神楽」(はやちねかぐら)・「佐陀神能」(さだしんのう)の二つの「神楽」が登録されています。

 この二つの神楽とともに、日本全国の神楽の登録を目指しています。

「遠山の霜月祭」                                     

霜月祭 遠山の霜月祭(上町 正八幡宮 2021年)

 遠山霜月祭は、わが国古来の信仰及び神事芸能の姿を伝えるものとして貴重であり、国の重要無形民俗文化財に指定(昭和54年)されています。これは、日本の国民生活の推移を理解する上で「遠山の霜月祭」は大変重要ですから、国として保存継承を支えましょう、ということです。

 とはいえ、当市においても人口減少、少子高齢化が進んでおり、継承が危ぶまれています。

 これまでも氏子・保存会の皆様のご尽力により継承活動が続けられて、近年は集落外の協力者の募集や、若手を中心とした保存団体の結成、女性の参加、祭礼の日程・次第の変更などにより、保存継承が図られていますが、3日間に及ぶ大祭の実施は容易ではありません。

 こうした中で、「遠山の霜月祭」をユネスコ無形文化遺産に登録して盛り上げていこうとする取組みが始まりました。

 参考:遠山の霜月祭

「ユネスコ無形文化遺産」                                 

 ユネスコ無形文化遺産は「無形文化遺産保護条約」のもと、歴史・文化・生活習慣と密接に結びついた無形の文化遺産を、国際的水準で保護していく枠組みです。「知床」(自然遺産)や「法隆寺地域の仏教建造物」(文化遺産)などの不動産を扱う世界遺産に似ていますが異なる枠組みです。我が国では、「人形浄瑠璃文楽」や「結城紬」、「和食;日本人の伝統的な食文化」など、22件が登録されています。

 近年は申請・登録件数が増加していることから、登録件数が多い国の申請を保留する傾向にあり、日本は一年おきの提案となっています。加えて類似した内容の提案を登録見送る傾向があります。

 そのため、個々の文化財を提案するのではなく、「風流踊」(ふりゅうおどり)、「山・鉾・屋台行事」、「来訪神」など、日本国内で一括して登録する事例があります。例えば、令和4年に登録された「風流踊」は、平成21年に登録された「チャッキラコ」(神奈川県)に、「新野の盆踊」「和合の念仏踊」(ともに下伊那郡阿南町)など40件を追加して計41件で登録されています。

 申請する文化遺産は、文化財保護法で指定・登録・選定された文化財を中心に、文化庁の文化審議会で選定されます。

 現在我が国は、「伝統的酒造り」を申請しており、令和6年の登録を目指しています。

風流 風流踊(新野の盆踊り 阿南町 2022年)

風流 風流踊(和合の念仏踊 阿南町 2022年)

「神楽」                                         

椎葉神楽 椎葉神楽(宮崎県椎葉村 2023年)

 「神楽」は、神を迎え、歌舞によりもてなし、神と人が交流する民俗芸能です。「遠山の霜月祭」も含まれており、その中でも湯釜を中心に行うことから湯立神楽(ゆたてかぐら)、あるいは旧暦霜月に行われることから霜月神楽に分けられています。

 ユネスコ無形文化遺産には、既に「早池峰神楽」、「佐陀神能」と二つの神楽が登録されています。早池峰神楽は獅子頭による舞がある獅子神楽、佐陀神能は手に採物(とりもの)と呼ばれる小道具を持って舞う採物神楽と呼ばれ、いずれも神話などの演劇的な舞が多く演じられます。湯釜の周りで神事を繰り返す湯立神楽とは異なる点が多くありますが、世界的にみれば類似した芸能とみなされてしまい、新たな登録にはハードルが高くなります。

花祭 花祭(愛知県東栄町月 2022年)

霜月神楽 天龍村の霜月神楽(天龍村坂部 2016年) 

これまでの経過                                      

九州から始まった取組み                                       

 九州の宮崎県にも多くの神楽が伝わっていますが、やはり人口減少、少子高齢化に伴う後継者不足の問題があります。平成28年、高千穂神社の宮司が中心となって九州管内で国の重要無形民俗文化財に指定されている10の神楽に声がけして、相互の情報交換や交流を通して神楽の継承に取り組むことを目的とした組織「九州の神楽ネットワーク協議会」が設立され、「九州の神楽シンポジウム2016」を開催しました。

 平成30年に開催された「九州の神楽シンポジウム」では、櫻井弘人氏(現 國學院大學専任講師、当時は飯田市美術博物館学芸員)が招かれ、南信州地域の民俗芸能の継承と活性化の取組みについて講演しました。これが縁となり、令和2年のシンポジウムでは「遠山の霜月祭」が招待され、湯立神楽を披露しています。ユネスコ無形文化遺産に登録されていた「佐陀神能」、「早池峰神楽」を除けば、九州以外では初めての神楽上演です。この時に上演したのが、上村上町の保存会の皆さんです。本祭だけで一昼夜に及ぶ大祭を上演に合わせたプログラムを考え、休日夜間返上で装束や小道具等を準備したとのことです。

九州の神楽シンポジウム 上町の保存会による上演

 また、平成30年には「全国神楽シンポジウム」が東京で開催されます。このように、九州で始まった神楽のネットワークは全国的な組織へと拡大しますが、ユネスコ無形文化遺産の国内候補に選定されるには、九州だけでなく全国の神楽団体が一丸となって取り組む必要があったからであり、そこに全国でも先駆けて「遠山の霜月祭」が加わったのです。上村・南信濃両地区の保存会の合意形成を経て、「遠山の霜月祭」として「神楽」のユネスコ無形文化遺産登録に向けて取り組んでいくことが決まりました。

 令和3年7月11日、九州の神楽ネットワーク協議会に続いて、神楽の全国組織設立準備会が開催されました。九州の神楽団体に加え「遠山の霜月祭」、「天龍村の霜月神楽」(天龍村)、「花祭」(愛知県)、「江戸の里神楽」(東京都)が加わっており、全国組織設立に向けた取組みが確認されました。

全国神楽継承・振興協議会                                 

 こうして令和4年10月11日、九州神楽ネットワーク協議会が全国版に移行する形で設立された全国組織です。日本を代表する民俗芸能「神楽」の継承・振興を目的としており、国指定の重要無形民俗文化財の神楽40のうち30が加入、当市では上村遠山霜月祭保存会(上村)、遠山霜月祭保存会(南信濃)が正会員として、飯田市が正会員の活動をサポートする特別会員として加入しています。また、天龍村の霜月神楽の3保存団体も正会員として、南信州民俗芸能継承推進協議会も特別会員として加入しています。

 全国で同じ課題を持つ神楽の継承団体が、事例を共有することで解決に向けたそれぞれの神楽の継承の一助となることも期待できます。活動として情報発信、協議会未加入の神楽団体への勧誘、国等への要望等を行っており、神楽の継承・振興の機運が高まる効果を期待して、ユネスコ無形文化遺産登録を目指しています。

全国神楽 設立総会(東京都 国立能楽堂) 

南信州民俗芸能継承推進協議会                               

 こうした流れとは別に、南信州(飯田下伊那地域)ではすでに民俗芸能の継承に向けた先駆的な取組みが行われています。

 南信州は、神楽や盆踊り、人形芝居や農村歌舞伎、獅子舞などの多様な民俗芸能が今も多く点在するが故に、「民俗芸能の宝庫」と呼ばれています。ところが現状は、後継者の減少や不在から存続の危機にさらされています。

 このような現状の下、後継者の育成と未来への継承のために地域を挙げた取組みを強力に推進するため、南信州の民俗芸能の継承団体、県、市町村、広域連合が手を取り合い、平成27年7月1日設立されました。

 情報発信や啓発活動、青壮年層への働きかけ、外部支援の受入・活用、企業等による協力体制の構築、記録の保存といった活動を行っています。こうした取組みは全国でも先駆的な取組みでもあり、九州の神楽ネットワーク協議会でも紹介され、参考にした活動が進められています。

参考:南信州民俗芸能ナビ(外部リンク)

イベント 南信州民俗芸能フェスティバル 2023年

今後の取組み                                      

 令和5年12月18日、今年度の我が国のユネスコ無形文化遺産登録の新規提案候補として、「書道」が選定されました。これが登録されるのは、早くても令和8年の見込みとなります。「神楽」は書道の次の提案、令和10年の登録を目指して引き続き活動していきます。

 ですが、ユネスコ無形文化遺産登録が最終目標ではありません。また、登録によって観光客の増加を目指すものでもありません。

 「遠山の霜月祭」は学術上極めて重要な民俗芸能ですが、それ以上に住民を熱狂させ、訪れる者を魅了させる力があります。霜月祭を継承すること自体が地域の存続を実現してきたという側面もあり、「遠山の霜月祭」を我々の世代で絶やすことなく、次の世代へ伝えることが持続可能な地域にとって重要であり、そのために活動を続けていきます。

 今後も皆さんのご支援をよろしくお願いいたします。


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