掘るだけじゃない!発掘調査のその後は?
飯田市教育委員会は、市内の遺跡を発掘し、その成果をお伝えしています。
前回は、平成30年に行った発掘調査のようすをお伝えしました。
発掘調査についてはこちら:/site/bunkazai/kiriishi-iseki.html
しかし、調査は現地での作業が終わってからも続きます。
今回は、現地を撤収したあと、「発掘調査報告書」を刊行するまでをご紹介いたします。
発掘したあとも、調査は続きます。
世の中で行われる発掘調査の目的はいくつかありますが、そのほとんどが「壊れる前に、遺跡を記録として残す(記録保存)」ことを目的とした緊急調査です。
したがって、昔の家の跡を見つけて、土器や石器を掘りだせば終わり!というわけにはいきません。
発掘で得られた情報を、誰にでもわかる形で半永久的に残す作業が必要となります。
その作業によって、壊される遺跡の身代わりとして作られるのが「発掘調査報告書」という本になります。
では、報告書ができるまでの作業を見ていきましょう。
報告書ができるまで その1 ~土器や石器を洗います~
発掘調査が終わったあと、遺物(発見した土器や石器など)を作業所へ持ち帰ったら、まずは洗います。
このように破片のひとつひとつを丁寧に、ブラシで洗浄していきます。
洗い終わったら乾かし、次の作業へ。
報告書ができるまで その2 ~遺物に情報を書き込みます~
洗った遺物を乾かしたら、発掘調査の情報を書き込んでいきます。これを「注記」(ちゅうき)といいます。
遺跡の名前、出土した場所、出土年月日など、記号や数字で表現します。
こうすることで、発掘調査で発見されたことが一目でわかるようになり、万が一ほかの遺物と混ざっても分けられます。
この作業は大切なのですが、とても時間がかかり、根気もいります。
報告書ができるまで その3 ~遺物をくっつけます~
さて、次はなんとなくイメージがつくのではないでしょうか。
このように、割れた状態で出土した土器やハニワの破片をくっつけ、もとの形に直す作業です。
くっつけることを「接合」(せつごう)といいます。
しかし、接合していくと、どうしても破片が足りない部分があります。
そこで、破片のない部分を石こうで穴うめして、違和感のないように仕上げます。
これは「復元」(ふくげん)という作業です。
上の写真の土器の白い部分が石こうを入れて復元したところです。
こうしてようやく、遺物がもとの形によみがえるのです。
復元された遺物は、必ず写真を撮影します。
写真も報告書に欠かせない重要な情報になります。
報告書ができるまで その4 ~図面をつくります~
遺物の復元が終わると、これらを図面に書き起こす作業に入ります。
土器の形や特徴を正確に写し取ることを「実測」(じっそく)といいます。
実測は、スケッチのような絵ではなく、考古学で用いられる方法に従って作るため、知識と経験が必要な作業です。
右がもとの土器、左が実測をして図面にしたものです。図面化することで、土器の特徴が客観的に伝わるようになります。
報告書ができるまで その5 ~現場の図面を整理します~
遺物だけではありません。遺構(昔の家や墓、石垣など)の図面も整理します。
現場で作成した図面は、そのままでは使えないので、清書しなくてはなりません。
これはどういうことでしょうか。順にみてみましょう。
次の写真は、発掘中の縄文時代の家の跡です。
続いて中段が現場で作成したこの家の図面、下段が情報を整理し、清書した図面です。
写真だけでは、家の実際の大きさや位置といった情報が表現できません。
したがって、発掘調査報告書には、正確な図面として示す必要があるのです。
報告書ができるまで その6 ~報告書を書きます~
いよいよ最後の作業に入ります。
発掘の担当者が責任をもって、発掘調査の成果を残すための本を書いていきます。
これまでに作成した遺物や調査現場の図面をレイアウトし、写真も入れながらわかりやすくまとめます。
報告書ができるまで その7 ~印刷、そして図書館へ~
担当者が原稿を書き終わると、いよいよ印刷です。
発行されたいろいろな報告書たちです。
文章と写真がそれぞれ掲載されています。
こうしてようやくすべての作業が終わりました。
印刷された報告書は、市内の図書館等に収められ、遺跡の記録(=昔の人々が生きたあかし)は永久に残るのです。
また、土器などは博物館等で保管され、展示されることもあります。
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いかがでしたか?
発掘調査は、掘ってから記録として残すまでが大切であることが、お分かりいただけたでしょうか。
発掘調査報告書は、市内の図書館や上郷考古博物館で読むことができますので、気になった方は、ぜひご覧ください。
今後も市内で行われる発掘にご注目ください!