信濃の火鑚習俗
信濃の火鑚習俗(しなののひきりしゅうぞく)
区 分:記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財(昭和52年6月1日 国選択)
所在地:長野県(飯田市上村程野 他)
概 要:
先のとがった木の棒を錐(きり)のように板の上で揉(も)んで火を鑚(き)りだす方法は、古来の発火法であり、我が国では各地の古社などに神事として伝承されてきました。
長野県では、遠山の霜月祭が行われる上村の程野正八幡宮に揉鑚法(もみきりほう ※1)が伝承され、また上・下諏訪神社にもロクロを使った火鑚法が伝承されています。いずれも古くから社に伝わる信仰行事に伴ってその技術が伝承されてきたものです。
揉鑚法(きしめ造り 2022年)
- ※1 揉鑚法:木と木をこすり合せておがくずと摩擦熱を出して発火する方法の一つで、木の板(火鑚板)の凹み(火鑚臼)の上に垂直に立てた木の棒(火鑚杵)を両手で挟み、下に押しつけながら手をこするようにして回転させて発火させます。
程野正八幡宮のきしめ造り:
程野の霜月祭は、12月14日から翌朝にかけてですが、12月1日にその準備である「きしめ造り」(※2)が行われ、その際に揉鑚法による採火が行われます。
舞殿(まいでん ※3)の竃(かまど ※4)の正面にゴザを敷き、3名の氏子が水干(すいかん ※5)を着けて座り、火鑚臼に杵を押し付けて錐揉みをします。先に乾燥させてた火口(ホクチ ※6)に火の粉が落ちて火が着くまで揉み続け、火種ができると扇であおりながら炊事場の竃(※7)に点火します。
揉鑚法で起こした火種を火口へ移す
扇で煽りながら竃へ移動
扇で煽り、火を起こす
聖なる火で米を炊く
麹と混ぜて桶へ移し、醸す
本祭まで蔵でねかせる
本祭が終わると、甘酒として氏子に振る舞われる
- ※2 きしめ:生酒女とも書き、炊いた米一升に米麹(こめこうじ)一斤(きん 600g)を混ぜてねかしたものです。霜月祭の本祭で神殿に供えられ、祭が終わると鍋でわかして甘酒とし、氏子が飲みます。
- ※3 舞殿:霜月祭が行われる遠山各地の神社においては、本殿と拝殿の前にあって竃が設置されている社殿をいいます。
- ※4 竃:程野の竃は土柱を2×3つ連ね、その間に鉄製の大釜を2口すえ、御幣(ごへい)を飾っています。この釜の湯が神々に召し上げられ、霜月祭の神事はこの竃を中心に行われます。
- ※5 水干:男子用和服の一種です。
- ※6 火口:ガマの穂などの燃えやすい素材の着火材をいい、程野では、サルノコシカケ(茸の一種)を小刀で削り、すり鉢ですられたものを用います。
- ※7 炊事場:舞殿の竃は神々をもてなす神事に限られたもので、実際の調理は、舞殿の竃とは別の竃などで行われます。
程野の霜月祭:
霜月祭の本祭では、火打金と火打石による採火が行われています。
実際に火打石で火をおこすのは遠山谷でも程野だけであり、きしめ造りの揉鑚法と共に貴重な採火儀礼が残されています。
交通アクセス・書籍案内:
遠山郷観光協会(外部リンク)(日程・交通案内など)
『遠山霜月祭〈上村〉』 上村遠山霜月祭保存会
飯田市立図書館(外部リンク)でご覧いただけます。