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程野 正八幡宮の霜月祭

ページID:0053150 印刷用ページを表示する 掲載日:2023年12月28日更新

襷の舞 襷の舞(2022年)

目次

特徴

・湯殿(ゆどの)

湯殿 2022年

釜は2口あり、粘土製の竃です。本殿に向かい右側が一の釜、左側が二の釜と呼ばれますが、程野以外の神社では左側が一の釜と呼ばれます。竃の上に吊下げられている木枠と、これを飾る湯飾りや幣束などをまとめて湯の上飾りといい、程野の湯の上飾りは釜付近まで垂れ下がっている特徴があります。

竃と湯の上飾りを合わせて湯殿(ゆどの)といい、神々をもてなす霜月祭で中心となる施設です。

楽器

舞では笛と太鼓が、神楽歌では太鼓が用いられます。

湯立(ゆだて)

湯立は、両大神の湯から始まる9立てに、御一門の湯鎮めの湯等を合わせた12立てです。重要な役湯(やくゆ)とそれ以外の湯立に区分されています。

基本形

神太夫夫婦〈2〉―八社神〈8〉―四面〈4〉―宮天伯(弓天伯)〈1〉

面数は15と遠山で最も少なく、集落内の神面が後世に奉納されておらず、上町タイプの基本形を残しているのが特徴です。湯は四面が跳ね、最後は弓を持った天伯が静かに舞います。

遠山氏の御霊「八社神」が行道

 八社 八社(源王大神・政王大神 2022年)

湯切りが注目される霜月祭ですが、特に遠山谷北部の霜月祭を特徴づけるのが遠山氏一族といわれる八社神(はっしゃのかみ)です。多くは沈痛な表情をした面で、特別な舞はなく竃の周りを一周して終わるだけですが、百姓一揆で滅ばされたとされる遠山氏の怨霊を慰め鎮める舞といわれています。

丁寧で美しい舞

襷の舞 襷の舞(扇 2022年)

程野の襷の舞は低い姿勢でゆっくりと舞う所作が多く、4人の息が揃って練度が高く、見応えがあります。約1時間も丁寧に舞われます。

祓詞や祝詞が丁寧に行われる

 座揃い 座揃い 2022年

神事に先立ち、「塩祓・三種大祓」「天地一切清浄祓」「座附の祓」「六根清浄大祓」「五方祓」が唱えられ、続いて「般若心経 ※1」が2回唱えられ、七五三引神楽がうたわれます。祓詞や祝詞などにより、何重にもわたり祓い浄めが行われます

  • ※1 般若心経:日本では最も一般的なお経、摩訶般若波羅蜜多心経の略です。

献饌儀礼が整っている

御神酒や野菜などが神殿に供えられる他、以下の特殊な供物があります。こうした特殊な供物が、とりわけ重要な湯立である役湯先湯御一門の湯鎮めの湯)の際に、上げ下げが行われます。

きしめ(生酒女)

生酒女 2022年

米に麹(こうじ)を混ぜてつくる甘酒となるもので、12月1日に仕込まれます。御一門の湯の最中におもくと一緒に神殿に供えられ、祭が終わると湯で溶かして甘酒とし、氏子で飲まれます。特に程野のきしめ造りは古い形のままに行われており、古式の発火方法が用いられています。

お白餅・ごふう(御供)

お白餅 2022年

洗ったうるち米を摺り米粉にしたもので、小さな鏡餅のように形作ります。神前に供え、祭が終わると小さく切って氏子にごふうとして分けられます。

おもく

本祭の日に、社殿の外(宮天伯の前)で白米が精舎(しょうじゃ)の火種で炊かれます。中折り紙の上に盛られて御一門の湯の最中に本殿に供えられ、祭が終わるとおじやに入れられたりします。

神仏習合の姿を良く残している

 五大尊の印 五大尊の印(2022年)

明治時代に神仏分離令を出す以前の日本では、神と仏の区分は極めてあいまいでした。民衆を救う仏が、日本の神の姿で現れるとする権現(ごんげん)が説かれたり、僧形(そうぎょう)の神像が祀られたりしていました。 

程野では神事に先立ち般若心経が唱え、湯立では印(いん ※2)を結び真言(しんごん ※3)を唱えるなど、こうした明治時代以前の信仰の姿を現在に伝えています。

  • ※2 印:印相ともいい、指で様々な形を作り、仏教の諸仏や悟りなどを表します。
  • ※3 真言:仏の真実の言葉という意味の呪文で、諸仏や悟りなどを表します。

古い発火方法を伝える

 火打石 火打石と火打ち金(先湯 2022年)

遠山谷北部の霜月祭では湯立のつど新しい火が起こされ、火打石と火打ち金による発火技法が用いられています。

程野では、本祭に先立ち12月1日に行われる「きしめ造り」において、火打石よりも古い揉鑚法(もみきりほう)よる発火方法が用いられており、「信濃の火鑚習俗」として、国から無形の民俗文化財に選択されています。

揉み切り法  揉鑚法による採火(2022年)

本祭の流れ

霜月祭は、きしめ造りや宵祭、準備(竃や湯飾り、火入れ等)、片付け(算日(さんにち))と、何日にもわたる神事です。当日にも朝から準備を行い、本祭となります。

1 式礼(式礼祭)

式礼 2022年

禰宜・氏子総代・自治会長により拝殿にて行われます。精舎のかしきは、帳元より草履(ぞうり)と扇をごはいりょ(御拝領)として受け取ります。

なお、程野と中郷では式礼を本祭の一連の行事として行っていますが、上町は式礼を例祭(祀掌祭 ししょうまつり)として、古典祭と区別して行っています。

(1)祓い

禰宜から順に塩で身を清め(塩祓い)、三種大祓を唱え、幣を振り、二拝二拍手一拝します。続いて太鼓に合わせて鈴を鳴らしながら、(みそぎ)の祓座附(ざづけ)の祓を唱え、二拝二拍手一拝します

(2)宮祓い

禰宜が祓幣を持ち、氏子が水の入った瓶子・塩皿・鈴を持ち従い、宮祓いの神楽をうたい、本殿前、舞殿、竃正面、表口の順に清めます。禰宜がモトを、氏子が鈴を鳴らしてウラをうたいます。

(モト)清めする惣谷川のな ヤンヤーハーハ  (ウラ)滝の水落ちて清まるとな ヤンヤーハーハ 祝いそめきよ (略)」

続いて、天地一切清浄祓六根清浄祓が唱えられ、その都度、二拝二拍手一拝します。

(3)大麻の祓

禰宜による修祓(しゅうばつ)で、大幣で氏子総代らを祓います。

(4)御扉開き

禰宜が神殿に昇り、警蹕(けいひつ ※4)と共に御扉を開け、すだれを巻き上げます。

  • ※4 警蹕:神殿の扉を開ける際に発せられる「おお」という声で、神様や貴人が現れる際に、失礼がないように周囲に声をかけるものです。

(5)奉幣(あげのさ)

神殿内から宵祭に納めた小幣を下し、新しい小幣を納めます。

(6)おわき・高幣立て(たかべい)

おわき 2022年

おわきを社殿外の宮天伯社の横に立て、イチョウの木の上に高幣(梵天)を結わえつけます。

(7)献饌(けんせん)

精舎から神殿にかけて氏子総代が並び、三方(さんぽう ※5)に乗せた次の供物と神帳・申上げを神前に供えます。

御神酒・洗米・昆布・野菜・果物 別に水・塩(宮祓いに使用する)

次に禰宜が降来要文御食御酒祝詞(みけみきののりと)を奏上します。続いて禰宜が大祓詞を奏上し、他の者は鈴を鳴らし、終わると一同で二拝二拍手一拝します。その後、禰宜が大祭祝詞を奏上し、玉串奉奠(ほうてん)を行います。

  • ※5 三方:神事において供物を乗せる木製の台のことです。

(8)御神酒開き

杯に御神酒を注いで、一同でいただきます。

2 座揃い(ざぞろい) 12時~

座揃い 2022年

(1)座揃いの御神酒

竃の正面に禰宜と氏子総代が、他方に氏子が座り、帳元のあいさつに続き、各自御神酒を飲みながら折詰をいただきます。禰宜と氏子総代らは、精舎のかしきが用意した、村人とは別の酒徳利で注がれます。

(2)祓い

塩祓三種大祓に続き、太鼓と鈴に合わせて天地一切清浄祓座附の祓六根清浄大祓五方祓が唱えられ、それぞれ終わると二拝二拍手一拝します。続いて般若心経が2回唱えられます。

(3)御神酒開き

一同で御神酒をいただきます。

(4)七五三引き(しめびき)

七五三引き 2022年

御神酒をいただきながら太鼓に合わせ、七五三引きの神楽をうたいます。

「冬来るとは 誰を告げつら ヤンヤーハーハ 北国の  アー北国の しめじが森のな ヤンヤーハーハ 禰宜が告げつる (略)」

3 神帳・神名帳(じんめいちょう) 13時30分~

神帳 2022年

神名帳(神帳)とは神社や神の名を記した帳簿のことで、一般的には延喜5年(927)にまとめられ、全国の官社(かんしゃ ※6)が記されている延喜(えんぎ)式神名帳をいいます。

奉読役は祭一番の大役とされており、禰宜や氏子総代の中から選ばれ、裃に烏帽子姿で、一の釜の正面で読み上げます。その間太鼓が叩かれます。程野では、「神帳と申上以降は余興」といわれるほど、大切な神事です。

  • ※6 官社:年に一度、国から幣帛(へいはく:神への捧げ物)を授かる神社をいいます。

神帳(部分)

「(略)五畿内五ヶ国大神五ヶ所まします

一、山城国 八郡 加茂大明神 一、大和国 拾五郡 三輪大明神 一、河内国 拾五郡 枚岡大明神 一、和泉国 三郡 大鳥大明神 一、摂津国 拾三郡 住吉大明神

是迄奉請驚(これまでしやうじたてまつるおどろかす)(略)」

神帳 2022年

4 申上 14時~

申上げ 2022年

全国から招待した神々に対する願い事で、奉読者は一般の村方の1名で、太鼓は叩かれません。

5 釜祓いの神楽

申上の奉読が終わると、釜洗い役(※7)の4人が竃正面で釜祓いの神楽をうたいます。

「おん清めする そう谷川のな ヤンヤーハーハ 滝の水  エー滝の水 落ちては清まるとな ヤンヤーハーハ 祝いそめ清

このほどは 何国の火床かな ヤンヤーハーハ 岩越えて エー岩越えて 大岩越えてな ヤンヤーハーハ 祝いそめ清 (略)」

  • ※7 釜洗い:本祭当日の朝、湯釜を洗い、切火で清浄な火を起こして竃に火を入れる係です。

6 両大神の湯(政王大神・源王大神の湯 先湯) 14時30分~

五大尊」から「湯召し」までを「湯立(ゆたて)」といい、霜月祭の中心となる神事です。上町タイプの霜月祭では、7立てを基本とする先湯(せんゆ)に、立願りゅうがん 願掛け)にもとづく湯立、御一門の湯鎮めの湯が行われます。上町では15立て、中郷では13立て、程野では12の湯が立てられます。

役湯(やくゆ)

重要で丁寧に行われる湯立を役湯と呼んでおり、禰宜か氏子総代などが必ず一人は入った4人で行われます。竃の五方で五大尊の呪文を唱え、九字を切り、産土の舞を舞います。これに準ずる「準役湯」があり、五大尊を竃の正面でのみ行います。それ以外の湯立は五大尊と産土の舞がなく、湯木の舞から始まり、2人で行われます。

上町タイプでは、先湯一(両大神の湯)・願湯・御一門の湯・鎮めの湯の4立が役湯です。

(1)五大尊(ごだいそん)

五大尊に先立ち、烏帽子に水干姿の4人が拝殿で、新しい草履と扇をごはいりょとしていただきます。

竃の正面に禰宜らが4人が座ります。4人の前には丸膳が2膳づつ置かれており、それぞれに火打石と火打金、塩と祓幣が置かれています。塩祓三種大祓を行った後、火打ちの呪文を唱え、座って2回、膝立ちして2回、火切を行います。

五大尊 2022年

続いて五大尊の印を結び呪文を唱え、その後、袖下で呪文を唱え、逆さ五大尊の印、または手刀の印を結びます。

袖下 2022年

これを竃の東西南北と正面の五方で繰り返します。

五大尊とは、五大明王(みょうおう)と呼ばれる忿怒(ふんぬ)姿の仏であり、中央と東西南北を守っています。神々を湯へ招くにあたり、明王が守っているから安心してお越しください、との意味といわれています。

(2)産土の舞(本舞)・神の舞

本舞 2022年

五大尊が終わると、竃の正面で神前に向かい、鈴と扇を持って2回舞います。五大尊と同じく、役湯にしかありません。道中の扇は火を煽る(あおる)所作です。

所作:拝礼ー礼式ー五方ー天地ーお山ー道中ーちらしー舞納め

(3)湯木の舞

湯木舞 2022年

宮世話人が4人分の湯木を水干に載せて竃を一周した後、湯木を渡します。4人は唱えごとをして受け取り、右手に鈴、左手に湯木を持ち、竃の周りを一巡します。

所作:礼式ー本舞ー五方ー本舞ーちらしー舞納め

(4)湯開き(五方開き)

湯開き 2022年

湯木を湯の上にかざし、先湯湯開きの呪文を唱え、神々の道開きを行います。五方に向かって行います。その後、他の氏子が湯蓋を取ると、4人は湯蓋を取る呪文を唱えます。

なお、上町・中郷では役湯の都度湯開きを行いますが、程野では先湯で湯蓋を取ると、以後二度とかぶせません。

釜 程野の湯蓋には笹舟が乗る(2022年)

(5)湯殿(ゆどの)渡し

湯殿 2022年

湯木を2本に裂き、4人がモトをとり、氏子観衆がウラをとります。神々の名は、役湯・準役湯では一柱づつ拾いますが、その他の湯立ではまとめて拾います。

(モト)おんしろたいを諸手に持ちてな ヤンヤーハーハ 拝む  (ウラ)拝むには四方の神をな ヤンヤーハーハ (略)

 (モト)日光月光〈神々〉の湯殿に渡るな ヤンヤーハーハー 湯ごろ (ウラ)湯衣(ゆごろも)は綾か錦かな ヤンヤーハーハー 湯ごろ  (略)」

神の名は、日光月光から始まり、著名な大社、社殿及び境内に祀られている神々と続き、拾い残しがないようにすべての神々が残らず拾われます。

(6)湯召し

湯召し 2022年

湯木を2本まとめて右手で持ち、湯木の端を釜の中に少し入れながら神の名前を拾います。禰宜がオモテで神の名を唱えると、続いて氏子らは、「お御影こそはくんもと昇れ」とウラをとります。

(モト)〈神々〉へお湯召  (ウラ)お御影こそはくんもと昇れ」

湯立が終わると、湯木は拝殿背後の湯木棚へ納められます。

7 両八幡の湯

湯立 2022年

石清水八幡・鶴岡八幡の湯立です。役湯ではないので、2名で湯木舞・湯殿渡し・湯召しを行います。湯殿渡しなどで神々の名はまとめて呼ばれます。

8 正八幡の湯

日吉神社の湯立で、両八幡の湯と同じように行われます。

9 四つ舞 16時~

四つ舞 扇の舞(2022年)

白袴・水干・烏帽子姿の四人の舞手が竃の前後に二人づつ並び、笛と太鼓に合わせて舞われます。採物(とりもの)により扇の舞太刀の舞とあります。

所作:拝礼ー礼式ー五方ー天地ーお山ー道中舞(半周)ー五方ー天地ーお山ー道中舞(半周)ーちらしー舞納め

四つ舞 太刀の舞(2022年)


10 初参り

この頃、子どもを出産した夫婦がその無事な成長を祈願し、神主のお祓いを受けます。


11 願湯 18時~

願湯

富士塚富士浅間の湯立で、五大尊・産土の舞・湯木の舞・湯殿渡し・湯召しを行う役湯です。

かつては願ばたきがなければ立てませんでしたが、現在は村中で願をかけたことにして、毎年恒例で行っています。

願帳奉読

願湯が始まると、神前で禰宜らにより行われます。その都度二拝二拍手一拝して三種大祓・一切成就の祓をし、願帳を奉読します。再び二拝二拍手一拝して立願御礼の詞を唱え、願帳の端を破り、二拝二拍手一拝して終わります。

12 湯の華(願ばたき・禰宜湯)

柄杓に湯釜の湯を汲んで、禰宜や立願のあった家へ持参し、清める神事です。

湯の華

立願のあった家へ行き、湯で家・床の間・火床・門・庭・水神を清めます。その後、湯を床の間に供え、各種祓いを唱え、ご馳走になると、頃合いを見て産土の舞を待ってから神社へ戻ります。

三種大祓天地一切清浄祓六根清浄大祓中臣祓産土の祓祝詞

禰宜湯

神帳を奉読した者が、禰宜の家を清めに行きます。

きしめ移し

この頃、宝蔵庫からきしめの桶を精舎へ移します。

13 一之宮・若宮の湯

役湯ではないので、2名で湯木舞湯殿渡し湯召しを行います。


  子どもの四つ舞

子どもの舞 2015年

保存継承のための中学生の舞で、披露できる場合に挿入されます。


14 一倉玉善権現(いちくらぎょくぜんごんげん)の湯

役湯ではないので、2名で湯木舞湯殿渡し・湯召しを行います。


  おもく炊き

20時頃、精舎から火種を持ってきて、社殿外の宮天伯前の石垣際で、米一合を炊きます。


15 鹿島大神の湯

所之大明神と諏訪大明神の湯立で、準役湯とされ、2名で竃正面でのみ火切り五大尊を行い、産土の舞湯木舞湯殿渡し・湯召しを行います。湯召しが終わると、鹿島の湯立の呪文を唱えます。

湯立 湯召し 2022年は4名で行った

16 天照大神の湯

住吉明神・淀之明神の湯立で、役湯ではないので、2名で湯木舞湯殿渡し湯召しを行います。

17 小野之明神・境之明神の湯

役湯ではないので、2名で湯木舞湯殿渡し湯召しを行います。

湯立 湯召し 2022年は4名で行った

18 四つ舞

四つ舞 2022年

「9 四つ舞」と同じです。

お蔵開き・面迎え

四つ舞の頃、禰宜・氏子総代によりお蔵を開け、面箱を社殿に移します。

19 舞台祓い(ぶたいばらい) 23時~

ぶた祓い 2022年

氏子全員が竃の周囲に座り、御神酒をいただき、夜食をとります。

20 御一門の湯 23時30分~

五大尊 五大尊(2022年)

(ね)の刻(午前0時)頃に行う役湯で、四面に捧げる湯といわれています。五大尊産土の舞湯木舞湯殿渡し・湯召しを行います。湯召しで拾う神々に、「大小仏閣残らず・谷々残らず・岳々残らず」が加えられます。

上町タイプでは、御一門が祭の大きな区切りとなっており、別火精進していた精舎の者たちは一般の氏子と同じ火で炊いたものを口にすることができるようになり、精舎のかしきは役を解かれ、一般氏子も精舎へ立入ることが出来るようになります(一般の参加者は出来ません)。また、舞の所作が扇で火を煽るものから、火を切り、伏せるものへと変わります。

きしめ上げ・おもく献上

湯木舞が始まった頃、精舎の者たちが中折をくわえて神前に生酒女(きしめ)とおもくを献上します。生酒女は瓶子一瓶に入れ、おもくは三方に敷いた中折り紙の上に紙を敷き、三方一つに4膳、合計16膳分を16本のしゃもじでそれぞれに盛り付けます。

上げ湯

きしめとおもく献上が終わると、柄杓に釜湯を汲み、社殿と屋外の祠の2組に分かれて湯を捧げて回ります。湯上げの歌をうたいながら、禰宜は柄杓を持ち、数人が鈴を持って従います。

「上げ湯をします 上げ湯をします 神も喜ぶ上げ湯でござる」または「上げ湯こそ 上げ湯こそ 神は喜ぶ上げ湯こそ」

面改め

面改 2022年

拝殿で禰宜や氏子総代が輪になり、中折り紙をくわえ、面箱から面や付属品を取り出し、異常がないか確認します。

21 襷の舞(たすきのまい)四面の舞 翌日午前1時~

着物・袴・黒足袋姿で金襴(きんらん)の襷を左にかけ、鉢巻きをつけた4人が舞います。採物(とりもの)により扇の舞太刀の舞とあり、笛と太鼓に合わせて舞われます。笛の音はゆっくりとしており、特に程野の襷の舞は身を低くして舞う見事な舞です。

襷の舞 扇の舞(ためつけ 2022年)

所作(扇):道中舞(ためつけ)ー礼式ー五方ー天地ーお山ー要ー道中舞(半周)ー天地ーお山ー要ー道中舞(半周)ー本舞ーちらしー舞納め

襷の舞 太刀の舞(2022年)

所作(太刀):礼式ー五方ー天地ー山かけー腰かけー輪くぐりー山かけー飛び切りー道中舞(半周)ー天地ー山かけー腰かけー輪くぐりーお山ー飛び切りー道中舞(半周)ー本舞ーちらし(舞納め)ー道中舞(社殿へ)

22 羽揃えの舞(はぞろえのまい) 翌日午前2時~

羽揃の舞 2022年

一の宮へ捧げる舞で、留め袖に帯のお太鼓を前に締め、紫の鉢巻を締めた女装の4人が扇のみで舞います。

道中・礼式・本舞・五方・お山・要・ちらしと呼ばれる所作があり、2人1組で扇を重ねて舞います。

所作:道中ー礼式ー本舞ー五方ーお山ー要ー本舞ー道中(半周)ー本舞ーお山ー要ー道中(半周)ー本舞ーちらしー道中(社殿へ)

23 寄り湯

寄進者の芳名(ほうめい)が読み上げられ、それに合わせて、梵天帝釈への湯召しを繰り返し行います。

24 鎮めの湯 翌日午前2時45分~

鎮めの湯は、仏の名から森羅万象(しんらばんしょう ※7)すべてを鎮魂する湯立です。「6 両大神の湯」と同じく役湯で、五大尊産土の舞湯木舞湯殿渡し・湯召しを行い、続いて湯を伏せます。

鎮めの湯 2022年

湯召しでは、神々だけでなく、大日如来を始とする如来・菩薩・羅漢(らかん)・弘法大師(※8)などの仏、宗教・政治・学問・芸術・父方・母方・世界人類・魚類・鳥類・獣物類・草木植物・鉱物・書物・機械・衣食住など、文字通り森羅万象すべてを拾います。

  • ※7 森羅万象:世界・宇宙のあらゆる物事や現象のことをいいます。
  • ※8 仏教において、悟りの境地に達した賢者を如来、悟りを得るために修行中の者・民衆を救うために活動する仏を菩薩と呼んでいます。弘法大師は真言宗の開祖 空海の尊称です

(7)川水神の湯

湯召しが終わると、禰宜が湯木の幣を湯釜の上にかざしながら呪文を唱えます。

(8)火伏せ湯伏せ

鎮めの湯が終わると、禰宜が竃の前に立ち、火伏せ湯伏せの呪文を唱えます。

こりとり(身そぎ) 午前3時20分~

禊ぎ 2022年

この頃、面をつける者が極寒の上村川へ行き、呪文を唱え、禊(みそぎ)を行います。

25 日月の舞(御座の神)

現在は奇数の人数で舞われますが、元々は12人(旧暦閏年は13人)で行われていたといいます。

(1)日月の舞

日月の舞 2022年

扇子と鈴を持った舞手が拝殿から一人づつ下りて、日月の舞をうたいながら竃の正面へ進みます。「大空や」の時に、飛び上がって一回転します。

「御日月のいまぞましますな ヤンヤーハーハ おおぞらや あし毛の駒にな ヤンヤーハーハ 手づなうつ」

(2)御座の神

御座の神 2022年

竃の正面にそろうと、鈴を鳴らしながら御座の神の唱え詞を唱えます。内容は「4 申上」に近いもので、暗唱するものですが、現在は扇に書いておき読み上げる者もいます。

(3)日月の舞

唱え終わると、再び日月の舞を舞いながら、威勢よく順次拝殿へ退出します。

26 面神  翌日午前4時30分~

笛と太鼓に合わせて面が舞い、登場に先立ち梁(はり)を湯木で叩いて知らしめます。程野の面は15面で、近代以降の面の奉納がなく、古い祭の様相を伝えています。

(1)神太夫夫婦

爺さ・お爺と呼ばれる神太夫(かんだゆう)と、お婆・婆さと呼ばれる2面で、日月・津島の面といわれます。

爺 神太夫(2022年)

爺さは、腰に刀を差して幣を外した湯木を両手に持ち、「伊勢音頭」と太鼓に合わせて登場します。

婆 姥(2022年)

続いて、着物姿で綿帽子をかぶり榊(さかき ※)を持ったお婆が登場し、榊で観衆を祓って回ります。

神太夫が釜の3分の2位まで回ったところで、村人に呼び止められ問答となります。問答にいい聞かされた神太夫は、祓い詞をいいんがら、釜を祓います。その後、氏子に「騙されたー、そりゃ騙されたー」と囃し立てられながら、婆を連れて元来た道を引き返します。

伊勢参りに出た神太夫夫婦が、村人の歓迎を受け、問答の末、この神社(正八幡宮)に参拝して帰るという筋書きです。

(2)八社(はっしゃ)

八社 源王大神・政王大神(2022年)

江戸時代初期に滅んだ遠山土佐守とその家臣といわれている面です。沈鬱(ちんうつ)な表情で竃を回っていくだけの死霊面は、遠山霜月祭の性格を良くあらわしており、上町タイプの面は特にその傾向が表れています。

政王大神・源王大神(まさおうだいじん・げんおうだいじん)

政王大神 政王大神(2022年)

源王大神 源王大神(2022年)

(かみしも)・烏帽子姿で、鈴と扇子を持ち舞います。2面が向き合ってあおる礼式を最初と最後に行うほかは、静かに竃の周りを2周します。なお、程野以外の神社では、木沢タイプも含めて源王大神が先に登場します。

両八幡

せんき 両八幡一 先祀八幡(2022年)

こうき 両八幡二 後祀八幡(2022年)

程野では先規(せんき)の八幡、後規(こうき)の八幡といわれ、それぞれ石清水八幡と鶴岡八幡といわれています。源王大神と政王大神と同じように舞います。

住吉明神・日吉明神・一の宮・淀の明神

一の宮のみ着物姿で綿布を頭にかぶっており、他は源王大神と同じです。

住吉 住吉明神(2022年)

日吉 日吉明神(2022年)

一の宮 一の宮(2022年)

淀 淀の明神(2022年)

(3)四面(よおもて)

土王 土王(2015年)

湯切りを行い、竃の周囲を飛び跳ねる荒行の面で、多くの氏子観客で舞殿内がいっぱいとなり、祭は最高潮に達します。

程野が一の釜と二の釜で湯を切るのに対し、上町・中郷では水王が一の釜、土王は二の釜となっています。

火伏せ湯伏せ

四面の登場に先立ち、禰宜が竃の正面で火伏せ湯伏せの呪文を唱えます。

水王・土王

四面1番は水王、2番は土王で、水王は精舎のかしきが着けることを許されます。

水王 水王(2016年)

水王は一の釜の前で両手を振り上げてると、観衆が「ヨーセー、ヨーセッ」と囃します。頃合いをみて、右手・左手・右手と湯を叩いて跳ねとばします。続いて二の釜で同様に湯を切ります。

土王 土王(2016年)

続いて、土王が同様に、一の釜と二の釜で湯を切ります。

湯切りが終わると、水王と土王は、木王と火王の登場を待ち、揃うと、水王は竃の西辺、土王は竃の南辺(正面)で飛び跳ねます。観衆の「ヨーセ―、ヨーセッ」の囃しに合わせ、舞殿隅の観衆に向かい走り、直前で反転し背中から観衆に跳び込みます。舞い手は体勢を整えて、再び元の隅へ跳び込みます。何回か繰り返し、次の隅と隅を跳ぶようになり、少しづつ右回りに進んでいき、竃を2周すると、再び刀を差して退場します。

水王 受け手に向かって走り(水王 2022年)

土王 反転してダイブ(土王 2022年)

木王・火王

木王 木王(2022年)

火王 火王(2022年)

四面3番の木王、4番の火王は、水王と土王が退場すると刀を外し、同じように飛び跳ねます。

(4)宮天伯(みやてんぱく)

天伯 2022年

天伯様と呼ばれる鬼神面で、弓を持って、きわめてゆっくりとした笛の音に合わせて舞います。天地四方をにらみ、顔で「寿」の字を空書きして登場し、ゆっくりと足踏みしながら、竃の周りを回ります。国産み神話にある、天地が未だ固まっていない泥沼の中を、固いところを探りながら歩いて鎮める様といわれています。1周半して竃の正面にくると、五方を舞い、次に弓に矢をつがえて一周し、続いて竃の正面と四隅で矢を放ちます。その後、弓と矢を大きく振り、湯の上飾りと湯木棚の湯木の幣を払いながら一周し、最後は拝殿の入口で「叶」の字を空書きして終わります。

27 神返し 翌日午前6時~

(1)金山の舞

金山の舞 2022年

4人が竃の正面に立ち、金山の舞の歌に合わせて飛び上がり、湯の上飾りを切り払いながら2周します。

(2)神返し

神返し 2022年

禰宜2人が竃の正面に立ち、一人が湯を汲んだ柄杓と祓い幣を、一人が鈴を持ち、神返しを東南西北中央で唱和して終わります。

「そもそも謹請東方、東は日の本富士浅間、今夜このみ注連の上に招じ勧請申し奉る。仏千体神千体、ぶるい眷属一社も残らず元の社の元の本宮へしっかとお送り申し奉る。又もござれよ、請う明年も神迎えしたら神栄えして。

神は行け行け我が里へ、杜はとどまれこの里に (略)」

28 宮閉じ 翌日午前7時頃

閉扉

宮元が供物を下げ、本殿の扉を閉めます。

直会

甘酒 2022年

帳元よりお礼の言葉があり、甘酒と護符(ごふう)をいただいてから帰宅します。現在、実際にきしめ(甘酒)を飲むのは、程野と下栗だけです。

用語(祭場・道具・役などの説明)

祭場等

本殿拝殿(はいでん)(神前)

本殿は祭神が祀られている社殿で神殿ともいわれます。本殿の前にあり祭神を拝む空間が拝殿で、神前ともいわれ、神事の一部や準備などが行われます。舞殿よりも一段高く、一般には開放されていない空間です。

舞殿(まいでん)(舞台・踊り場)

拝殿の前にあり、神楽歌や舞が奉ぜられる霜月祭の主な祭場となる板の間で、中央に土製の竃があり、湯釜が二口すえられています。村人以外の立ち入りは、基本的に舞殿に限られています。

湯殿(ゆどの)

竃とその上の湯の上飾りを合わせて湯殿といいます。程野では本殿に向かい右側が一の釜、左側が二の釜になります。

 湯殿 2022年

帳元・帳場

拝殿の出入り口正面にあり、参拝者の奉納の受付やお札などを扱っています。

精舎(しょうじゃ)

祭の間、禰宜や氏子総代たちが控えている部屋です。炉があり、一般の氏子とは別の火を用いて食事が作られています。

へっつい(炊事場)

炊事場のことで、氏子の食事などが用意されます。

宮天伯(みやてんぱく)

社殿の脇にある祠で、神社や集落の守り神といわれる天伯を祀っています。

道具など

湯木(ゆぼく)

湯立に使われる幣束で、目の通ったサワラの2尺6寸(約79cm)の板材を、割り箸のように割り残して紙垂(たれ)をつけたものです。湯立の湯殿渡しの際に2本に裂きます。

 湯木 湯木を割る(2022年)

湯蓋(ゆぶた)

湯釜にかぶせる蓋で、栗の板材を3枚並べて割竹で挟んでいます。笹舟が乗せられています。

湯たぶさ

他の神社では湯蓋を払う際に用いられる笹の束ですが、程野では湯釜の縁に巻いてある縄をいいます。

釜 2022年

水干(すいかん)

禰宜や舞い手が着る白木綿の上着で、背中に遠山氏の家紋である丸に二引紋が描かれています。

主な役など

禰宜 (ねぎ)

霜月祭や季節ごとの小祭などの神事を司る神職をいい、村人からはネギサマと敬われています。現在は氏子総代のうち一人が努めています。

帳元(ちょうもと)

祭の進行役です。

かしき・精舎(しょうじゃ)のかしき

かしきは一般氏子の炊事の世話をします。精舎で禰宜や帳元などの食事を世話する係を精舎のかしきといい、程野では御一門の湯が終わるまで役を務め、四面(よおもて)の一番手水王をかぶることができます。

かしき 精舎のかしき(2022年)

きしめ役・お白餅役

特殊な神饌を用意する役で、両親がそろい、ブクのない男子が務めます。

女性

祭の執行は古くは男性に限られていましたが、伝承のための中学生の舞と、着付け等で女性の手を借りることがあります。

ブク

死喪のことをいい、近親者に不幸があった者は祭の参加や重要な役を控えます。期間は故人との関係などにより様々ですが、1年間とする場合もあります。死喪の他に、被災や妊娠などもブクとする場合もあります。

精進

祭の一月前、あるいは12月に入ると、四つ足(豚・牛・羊など)など獣の肉を食べないなど、精進に心がける人も多くいます。また古くは禰宜が家族とは別の火を用いて生活したといいます。

神社と本祭の日程

日時:12月14日(旧 旧暦霜月15日) 11時~翌日午前7時)

次第:程野 霜月祭次第 (PDFファイル/83KB)

場所:飯田市上村102(程野 Googlemap)(外部リンク)


上記は平成17年(2005)の日程です。最新の日程は、遠山郷観光協会等でご確認ください。

初めて見学される方は、『遠山の霜月祭』の「見学にあたって」をご一読下さい。

他の霜月祭を見る

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下栗タイプ(遠山谷中部)の霜月祭 (上村 下栗)

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関連サイト・参考文献等

  • 遠山の霜月祭り(外部リンク)(遠山郷観光協会特設サイト)
  • いいだtube.TV(外部リンク) (文化会館サブサイト 動画)
  • 『遠山の霜月祭 上村編』 上村遠山霜月祭保存会 2008
  • 『遠山の霜月祭りガイド』 遠山郷観光協会 2015
  • 『神々の訪れ -天竜川流域の芸能の面-』 飯田市美術博物館 1996
  • 『遠山霜月祭の世界 -神・人・ムラのよみがえり-』 飯田市美術博物館 2006
  • DVD 『遠山の霜月祭 上町編・中郷編・程野編・下栗編』 飯田市美術博物館 2009

文献・DVDは、飯田市立図書館で閲覧・視聴できます

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