おかん塚古墳　（飯田古墳群）

おかん塚古墳（おかんづかこふん）

区　分：史跡（平成28年10月3日　国指定「飯田古墳群」）

所在地：飯田市松尾上溝2806　他

所有者：飯田市

時　代：古墳時代（6世紀後半）

構　造：前方後円墳

規模等：

　墳丘測量図

　○墳丘；全長50m（推定）・主軸N120°E（※1）

　○埋葬施設　後円部；横穴式石室（※2）　全長10.6m　〈玄室（※3）長4.55m　幅約3.23～3.5m　高さ3.4m、羨道（※3）長6.05m　幅1.6m　高さ1.9m〉・主軸N12°E

　○埋葬施設　前方部（消滅）；横穴式石室　全長3.1m以上　幅1.3～1.4m　高さ1.5～1.8m・主軸N12°E

• ※1　遺構の中心線が、北（North）から120度東（East）へ傾いているという意味です。西へ傾く時はW（West）を用います。
• ※2　横穴式石室：古墳時代の石室には、縦方向に掘られ、蓋（ふた）をした竪穴式石室と、横穴を設けて出入り口とした横穴式石室があります。5世紀代は竪穴式石室、6世紀以降は横穴式石室が用いられました。竪穴式石室が個人を埋葬したのに対し、横穴式石室は入口を開ければ数代にわたり埋葬できます。
• ※3　玄室・羨道：石室のうち遺体を安置する空間を玄室（げんしつ）といい、玄室へ通ずる通路を羨道（せんどう・えんどう）といいます。

概　要：

後円部と前方部とそれぞれに埋葬施設がありましたが、前方部は削平されており、後円部のみが残っています。後円部の横穴式石室は、巨石を用いて玄室と羨道部が明瞭に分かれた造りをしており、畿内型横穴式石室といわれています。特に玄室の天井が高いことが特徴です。

　羨道部と玄室の境（玄門部）

　奥壁側

石室は明治時代に開口し、明治末期には石材が売買されて破壊寸前でしたが、地主や地元住民の熱意により残された経過があります。

　石室開口部

　後円部

前方部の石室は土取り中に発見されたもので、当時の記録からすれば、玄室と羨道部の区別が不明瞭な無袖式と考えられています。

6世紀後半とみられる本古墳を最後に、松尾地区では前方後円墳が築かれていません。

出土遺物

後円部石室：鈴12・瓔珞（※4）1

前方部石室：鉄鏃11・鹿角装刀子（※5）1・馬具11（轡（※6）・杏葉（※7）・かこ（※8）・飾金具　他）・玉類2・土師器（※9）片10（高坏）、須恵器（※10）片3（高坏・甕）

他に後円部石室内から馬具・刀等が出土したことも伝えられていますが、詳細は不明です。

• ※4　瓔珞（ようらく）：宝石などを編んで作った首飾りです。
• ※5　鹿角装刀子（ろっかくそうとうす）：刀子とは小刀・ナイフで、装飾を施した鹿の角で柄（ハンドル・グリップ）を着けたものです。
• ※6　轡（くつわ）：馬の口に咬（か）ませる道具で、手綱（たづな）に繋（つな）いで馬を制御する道具です。
• ※7　杏葉（ぎょうよう）：馬具に吊下げる飾り金具です。
• ※8　かこ：馬に乗る際に足を入れる鐙（あぶみ・ステップ）の上に着ける金具で、鞍（くら・サドル）から伸びる革を留めて、鞍と鐙を繋ぎます。金ヘン＋交に具と書きます。
• ※9　土師器（はじき）：古墳時代の素焼きの焼き物です。
• ※10　須恵器（すえき）：古墳時代に朝鮮半島から伝わった焼き物で、ロクロで形を作り高温の窯で焼いたものです。

上溝（あげみぞ）古墳群

本古墳を含め、3基の前方後円墳と11基の円墳からなる古墳群です。円墳は現在すべて消滅しています。

松尾地区の様相：

前方後方墳（※11）である代田山狐塚古墳が4世紀前半に、羽場獅子塚古墳が4世紀中頃に造られていることが、他の地区と大きく様相が異なります。しかし、その後これに続く前方後円墳は造られておらず、飯田古墳群との間には断絶があることは、他地区と同じです。4世紀から5世紀前半にかけては、弥生時代以来の方形周溝墓（※12）が造られ続けています。

5世紀中頃に、物見塚古墳、茶柄山古墳群などが円墳が造られ始め、周辺から馬や馬具、武具が出土しています。その後、5世紀後半から前方後円墳が造られ始め、代田獅子塚古墳、水佐代獅子塚古墳、茶柄山3号古墳がやや離れた位置に築かれています。

6世紀の前方後円墳は松川右岸の高台に集中しています（上溝古墳群）。6世紀前半に姫塚古墳が、中頃に上溝天神塚古墳が築かれ、後半のおかん塚古墳を最後に前方後円墳は造られなくなりました。円墳も間もなく築かれなくなりましたが、上溝11号古墳の事例からすれば、奈良時代8世紀までは、横穴式石室での追葬（ついそう　※13）が行われていたようです。

松尾地区には、5世紀中頃から馬に関連する集団が登場し、間もなく前方後円墳を造り始めました。石室の特徴からは、6世紀中頃には東海地方との関連がうかがえますが、6世紀後半には畿内との関わりがうかがえます。

• ※11　前方後方墳：前方後円墳の丸部分を四角に変えた、四角と三角を足したような形の古墳で、古墳時代前期の東日本（東海地方）に多く分布しています。
• ※12　方形周溝墓：周囲に四角い溝を掘った墓をいいます。弥生時代以来の方形周溝墓は、古墳に比べ盛土の高さが低いことが特徴の一つです。
• ※13　追葬：一度埋葬した施設へ、後に別の遺体を埋葬することです。横穴式石室は、入口の川原石（閉塞石）を取り外せば追葬が可能です。

書籍等案内：

• 史跡　飯田古墳群
• 『飯田は古墳の博物館　古墳ガイドブック』　飯田市上郷考古博物館　2017
• 国指定史跡飯田古墳群パンフレット （PDFファイル／7.29MB）
• 特集国指定史跡飯田古墳群（広報いいだ平成29年1月1日号より部分転載） （PDFファイル／12.71MB）
• 飯田市有形文化財　飯田古墳群馬匹関連遺物
• 『飯田における古墳の出現と展開』　飯田市教育委員会 2007
• 『飯田古墳群』　飯田市教育委員会 2012
• 『飯田古墳群　-論考編-』　飯田市教育委員会 2013
• 『下伊那史』第二巻　下伊那誌編纂会　1955
• 『黄金の世紀』　飯田市美術博物館　2011

アクセス・見学・注意事項：

• 飯田市考古博物館　車5分　徒歩25分
• JR飯田線「下山村」駅 徒歩8分、「伊那八幡」駅 徒歩10分
• 信南交通 乗合バス久堅線　「堀割」 徒歩1分
• 道路上や私有地へは駐車できません。小型車なら墳丘南側に駐車可能です。
• 近隣の方へご配慮をお願いします。
• 石室は古代の土木技術で造られており、現在の技術で安全が確保されているものではありません。特に地震や大雨の後は状況をよく確認してください。

周辺の古墳：

• 御射山獅子塚古墳：徒歩5分
• 上溝天神塚古墳：徒歩3分
• 飯沼天神塚（雲彩寺）古墳：徒歩16分