姫塚古墳 (飯田古墳群)
姫塚古墳(ひめづかこふん)
区 分:史跡(平成28年10月3日 国指定「飯田古墳群」)
所在地:飯田市松尾上溝3366-1 他
所有者:個人
時 代:古墳時代(6世紀前半)
構 造:前方後円墳
規模等:
墳丘測量図
○墳丘;全長40m (後円部径23.6m 前方部幅23.6m)・主軸N60°E(※1)
○埋葬施設;横穴式石室(※2) 全長4.2m以上〈玄室(※3)長2.9m 幅1.8m 高さ1.4m、羨道(※3)長1.3m以上 幅1.1m 高さ1.2m〉・主軸真北
- ※1 遺構の中心線が、北(North)から78度東(East)へ傾いているという意味です。西へ傾く時はW(West)を用います。
- ※2 横穴式石室:古墳時代の石室には、縦方向に掘られ、蓋(ふた)をした竪穴式石室と、横穴を設けて出入り口とした横穴式石室があります。5世紀代は竪穴式石室、6世紀以降は横穴式石室が用いられました。竪穴式石室が個人を埋葬したのに対し、横穴式石室は入口を開ければ数代にわたり埋葬できます。
- ※3 玄室・羨道:石室のうち遺体を安置する空間を玄室(げんしつ)といい、玄室へ通ずる通路を羨道(せんどう・えんどう)といいます。
概 要:
石室は後円部の墳丘中ほどに真南に開口しており、開口部には一部後世の石積みがあります。
玄室奥側
石室は、東側のみ袖(そで ※4)をもつ片袖式で、川原石を用いており、持ち送り(※5)の構造がよく現れています。石室内部が赤く塗られていることも特徴です。
- ※4 袖:玄室と羨道の境が明瞭で、肩のように突き出ている部分を袖といい、無袖式、両袖式、片袖式の分類があります。
- ※5 持ち送り:石材を内側に傾斜させて積み重ね、最後に天井石を置いて押さえつける石室の積み方です。
石室開口部の様子
墳丘
墳丘は、周囲を削平されているものの、前方部・後方部共に残存しています。
出土遺物
○七鈴鏡1
7つの鈴が付いた銅鏡で、江戸時代享保年間(1716~1735)以前に前方部から出土したと伝えられます。
上溝(あげみぞ)古墳群
本古墳を含め、3基の前方後円墳と11基の円墳からなる古墳群です。円墳は現在すべて消滅しています。
松尾地区の様相
前方後方墳(※6)である代田山狐塚古墳が4世紀前半に、羽場獅子塚古墳が4世紀中頃に造られていることが、他の地区と大きく様相が異なります。しかし、その後これに続く前方後円墳は造られておらず、飯田古墳群との間には断絶があることは、他地区と同じです。4世紀から5世紀前半にかけては、弥生時代以来の方形周溝墓(※7)が造られ続けています。
5世紀中頃に、物見塚古墳、茶柄山古墳群などが円墳が造られ始め、周辺から馬や馬具、武具が出土しています。その後、5世紀後半から前方後円墳が造られ始め、代田獅子塚古墳、水佐代獅子塚古墳、茶柄山3号古墳がやや離れた位置に築かれています。
6世紀の前方後円墳は松川右岸の高台に集中しています(上溝古墳群)。6世紀前半に姫塚古墳が、中頃に上溝天神塚古墳が築かれ、後半のおかん塚古墳を最後に前方後円墳は造られなくなりました。円墳も間もなく築かれなくなりましたが、上溝11号古墳の事例からすれば、奈良時代8世紀までは、横穴式石室での追葬(ついそう ※8)が行われていたようです。
松尾地区には、5世紀中頃から馬に関連する集団が登場し、間もなく前方後円墳を造り始めました。石室の特徴からは、6世紀中頃には東海地方との関連がうかがえますが、6世紀後半には畿内との関わりがうかがえます。
- ※6 前方後方墳:前方後円墳の丸部分を四角に変えた、四角と三角を足したような形の古墳で、古墳時代前期の東日本(東海地方)に多く分布しています。
- ※7 方形周溝墓:周囲に四角い溝を掘った墓をいいます。弥生時代以来の方形周溝墓は、古墳に比べ盛土の高さが低いことが特徴の一つです。
- ※8 追葬:一度埋葬した施設へ、後に別の遺体を埋葬することです。横穴式石室は、入口の川原石(閉塞石)を取り外せば追葬が可能です。
書籍等案内:
- 史跡 飯田古墳群
- 『飯田は古墳の博物館 古墳ガイドブック』 飯田市上郷考古博物館 2017
- 国指定史跡飯田古墳群パンフレット (PDFファイル/7.29MB)
- 特集国指定史跡飯田古墳群(広報いいだ平成29年1月1日号より部分転載) (PDFファイル/12.71MB)
- 飯田市有形文化財 飯田古墳群馬匹関連遺物
- 『飯田における古墳の出現と展開』 飯田市教育委員会 2007
- 『飯田古墳群』 飯田市教育委員会 2012
- 『飯田古墳群 -論考編-』 飯田市教育委員会 2013
- 『下伊那史』第二巻 下伊那誌編纂会 1955
- 『黄金の世紀』 飯田市美術博物館 2011
アクセス・見学・注意事項:
- 飯田市考古博物館 徒歩30分 車6分
- JR飯田線「下山村」駅 徒歩9分、「伊那八幡」駅 徒歩12分
- 信南交通 乗合バス久堅線 「堀割」 徒歩3分
- 私有地・通行の妨げになる場所への駐車はお止めください。
- 私有地ですので無断での立ち入りはご遠慮ください。
- 石室は古代の土木技術で造られており、現在の技術で安全が確保されているものではありません。特に地震や大雨の後は状況をよく確認してください。
周辺の古墳:
- おかん塚古墳:徒歩3分
- 上溝天神塚古墳:徒歩3分
- 羽場獅子塚古墳(前方後方墳):徒歩4分
- 水佐代獅子塚古墳:徒歩5分
- 飯沼天神塚(雲彩寺)古墳:徒歩15分